本日のインタビューは、タカラバイオ株式会社(証券コード:4974)です。
現在の主力は遺伝子研究用の試薬などの遺伝子工学研究事業ですが、2013年11月の再生医療関連法や改正薬事法の成立を追い風とした遺伝子医療事業の成長が期待されています。

同社の現在から今後の成長機会まで、IRを担当する河村さん、野津さんにお話をうかがいました。(前後編でお届けします)

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Q4: 今後の成長戦略は?

Q4-1:ここで、遺伝子医療事業の全体像についてお伺いしたいと思います。受託(CDMO)事業の他にどのような事業があるのですか?。

遺伝子治療の臨床開発と、細胞医療事業があります(詳細は下記をご参照ください)

図表4-1:遺伝子医療事業の事業内容

(アニュアルレポート2013:P3より引用)

Q4-2:遺伝子治療の臨床開発と、細胞医療事業における御社の強みは何ですか?

レトロネクチン®を用いた高効率遺伝子導入法及びリンパ球の拡大培養法です。 では、レトロネクチン法とは何か、なのですが…

Q2-3では「細胞を取り出し、遺伝子を導入することでヒトiPS細胞を作製する」というお話をいたしました。実は、ごくおおざっぱに申せば、遺伝子治療や細胞治療の基本はいずれもこういったプロセス――体内からいったん細胞を取り出し、それに遺伝子を導入する等の加工をして、また体内に戻すという――工程を経るのです。「外に出した」時に、新しい機能を細胞に追加したり、特殊な細胞だけを濃縮したりする、その内容は異なりますが。

そして当社は、この「体の外で細胞に遺伝子を導入したり、細胞を加工したり」する時に、より効率良く遺伝子を導入したり、特定の種類の細胞を増やしたりを実現できる技術を持っている。前者がレトロネクチンを用いた高効率遺伝子導入法で、後者がリンパ球の拡大培養法だとご理解いただければ、概ね合っています。

■遺伝子医療事業

細胞医療事業

Q4-3:では、細胞医療事業についてお聞きします。直近では2013年12月に、レトロネクチン®を用いたがん免疫細胞療法に関する臨床研究成果が発表されていましたが、この分野におけるレトロネクチンの貢献についてお話ください。

A2-1:
これはQ4-2でご説明した後者、レトロネクチン®を用いたリンパ球の拡大培養法に関わる部分です。順にご説明しますね。

がん免疫細胞療法とは、患者さんご自身のリンパ球を、自身のがん細胞を攻撃できるように体外で活性化し、その細胞数を増やしてから体内に再び戻し、がん細胞を破壊に導くというものです。免疫細胞療法は、人間が本来持っている自然治癒力を活用したものですし、患者さんご自身の細胞を活用する治療法ですので、外科手術、放射線治療、化学療法などと比較して、一般的に副作用が少ないと言われます。

この免疫細胞療法においては、治癒力の高い細胞を効率よく増やすことが重要となります。この点当社は、レトロネクチンを用いたTリンパ球拡大培養法によって、効率よくTリンパ球の拡大培養を行うことができ、またその増殖した細胞中には未分化な細胞であるナイーブT細胞*注4が多く含まれていることを確認しています。

リンパ球だけではありません。当社は、レトロネクチンを用いて、約90%と高純度のNK(ナチュラルキラー)細胞*注5を大量に拡大培養する技術も有しています。

4-2:レトロネクチン®誘導Tリンパ球療法

(クリックして画像を拡大)

4-3:NK細胞療法の仕組み

(クリックして画像を拡大)

(ホームページ:細胞医療事業より引用)

注記(編集室作成)

注4:
ナイーブT細胞は、腫瘍局所近辺で教育を受け、がん細胞を特異的に殺傷できる能力がある細胞傷害性T細胞(CTL)になるとともに、体内でより長期間生き残ることが期待されます。

注5:
NK細胞は、末梢血中に10~20%の割合で存在するリンパ球の一種で、ウイルスによる感染やがん細胞に対する初期防御機構としての働きを担っています。加齢やストレスなどによりNK細胞の活性が低下することが知られており、高齢化に伴うがん発症の原因の1つと考えられています。

■遺伝子医療事業

遺伝子治療

Q4-4:遺伝子治療の分野におけるレトロネクチンの貢献についてもお話いただけますか?

A2-3:
これはQ4-2でご説明した前者、レトロネクチン®を用いた高効率遺伝子導入法に関わる部分で、当社はこの技術の主要国における独占的実施権を保有しています。

この方法が画期的なのは、従来は難しいとされてきた、造血幹細胞等の血球系細胞へのレトロウイルスベクターによる高効率遺伝子導入を可能にしたことです。
「造血幹細胞」とは、赤血球、白血球、血小板をつくり出すもとになる細胞です。造血幹細胞には、細胞分裂によって自らを複製する性質がありますので、なくなることがありません。つまり、造血幹細胞に目的の遺伝子を組み込むことができれば、その遺伝子は生涯にわたって体の中に存在することになり、遺伝子治療の治療効果を飛躍的に高めることができます。

こうした理由から、レトロネクチン®を用いた高効率遺伝子導入法は、世界で60を超える遺伝子治療の臨床研究に採用され、かつ当社から6社の企業にライセンスアウトされており、体外遺伝子治療における遺伝子導入法のスタンダードとなっています。

図表4-4:レトロネクチン®を利用した遺伝子治療概念図

(第11期 有価証券報告書:P7より引用)

Q4-5:遺伝子医療のパイプラインについて、特に注目すべきはどの開発品でしょう?

図表4-5:遺伝子医療事業の臨床開発スケジュール

(クリックして画像を拡大:会社説明会(2013年12月19日開催)資料:P19より引用)

A4-5:
2つほどご紹介いたします。

HF10

がんの治療薬として開発中なのですが、非常に面白い治療薬ですので、是非ご紹介したいと思います。

ヘルペスウイルスという名前を聞いたことはおありですか?口内炎ができた時にはこのヘルペスに感染している方が多いという比較的身近なウイルスなのですが、この一種である、HF10(=単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)の弱毒化株)には、非常に面白い性質があるのです。注射などの方法でヘルペスウイルスをがん細胞に入れますと、がん細胞の中で増殖し、がん細胞を食べる、と申しますか溶かしてしまうのです(腫瘍溶解性ウイルス)。しかも、自然の健康な細胞には感染したり悪影響を及ぼしたりはせず、がんだけを無くすことができるという、大変ユニークな性質を持っています。

―― 頭頸部がんなどの固形がんを対象とした米国でのフェーズ1臨床試験は、まさに今年度(2013年度)終了予定と書いてありますね。進捗はいかがですか?

計画通り順調に進んでおり、米国での第I相臨床試験は今年度中に終了予定で、国内でも名古屋大学と三重大学とで臨床研究を進めています。

図表4-6:HF10プロジェクト

(第12期 第2四半期決算説明会:P23より引用)

TCR遺伝子治療

我々のオリジナルな技術という点では、TCR遺伝子治療についてかなりコミットし、がん治療薬としての開発を進めております。

TCR遺伝子治療のプロセスとは、患者さんの体内から血中のリンパ球を取り出し、がん細胞の攻撃力を強化(活性化)した上で体内に戻す、というものです。

―― どのようにして攻撃力を強化するのですか?

がん細胞には、細胞の表面に“目印”がついています。外に取り出したリンパ球が、その目印をよりはっきりと認識できるような仕掛けをするのです。例えば肺がんの細胞は、肺がんの表面に特徴的な目印があって、胃がんの場合は、胃がんの特徴的な目印が出ているのでが、TCRという技術を使うと、目印に合わせてそのリンパ球を細工することが可能となります。

TCR遺伝子治療は、米国国立がん研究所でも悪性黒色腫などを対象に、当社のレトロネクチン法を用いて臨床研究が進められている有望な治療法です。
当社といたしましては、現在、フェーズ1臨床試験の開始準備を進めております「MAGE-A4・TCR遺伝子治療」、このMAGE-A4は、食道がんに特徴的な目印です。

そして、2014年度のフェーズ1臨床試験開始を予定しております「NY-ESO-1・TCR遺伝子治療」、このNY-ESO-1は何個かありますね、骨膜肉腫、悪性黒色腫、卵巣がん、食道がん、という4つのがんの目印とります。これらにつきましては、国内に研究パートナーがおりますので、おそらく国内中心の治験になるかと思いますが、引き続き開発を進めてまいります。

Q5: 個人向けIRの方針および個人投資家へのメッセージをお話し下さい

Q5-1:本日は遺伝子医療分野を中心にお話をお伺いいたしましたが、最後に改めて、「遺伝子工学研究事業」と「医食品バイオ事業」を保有しておられる意義についてお聞かせ下さい。

A5-1:
我々の経営は、「バイオ技術を売る」こと――我々の強みである技術の価値を最大化し、外に出していくことをテーマとしています。一見色々なことをやっているように見えると思いますが、根底にあるものはすべてつながっています。

価値最大化のために、現在(世の中に)ないものを出していく、そのための現在のキーワード、テーマが「遺伝子治療」や「再生医療」であり、今は経営資源を投入しています。しかしながら、この事業の根底にあるものは、遺伝子工学研究事業という形でも具現化されていますし、医食品バイオ事業のキノコや栄養食品もバイオの技術をベースにしています。

当社は、すべての事業を我々の価値の出口と考えていますし、その根底はバイオの技術である「ということを皆様にお伝えしたいと思います。

Q5-2:最後に、投資家へのメッセージをお願いします。

A5-2:
当社が保有するバイオの技術は、最終的には皆様一人ひとりの健康や福祉に直接貢献できるものであると思っております。

我々の現在の取り組みが実を結ぶことは、皆様に対して、医療や健康の分野で具体的にお役に立つことにつながる、我々はそのようなポジションにいると自負しておりますし、そのために持てる技術や経営資源の価値最大化に努めていく所存です。 投資家の皆様におかれましては、引き続き当社にご期待いただけましたら幸いです。

―― 本日はありがとうございました!