本日のインタビューは、タカラバイオ株式会社(証券コード:4974)です。
現在の主力は遺伝子研究用の試薬などの遺伝子工学研究事業ですが、2013年11月の再生医療関連法や改正薬事法の成立を追い風とした遺伝子医療事業の成長が期待されています。

同社の現在から今後の成長機会まで、IRを担当する河村さん、野津さんにお話をうかがいました。

インタビュー後編はこちら >>

Q1: 御社のビジネスは何ですか? わかりやすく教えて下さい。

Q1-1:まず、御社の沿革について教えてください。

当社の前身は、寳酒造株式会社(現・宝ホールディングス株式会社<証券コード:2531>のグループ企業)のバイオ事業部門です。寳酒造株式会社は、1967年、京都市伏見区に中央研究所を研究し、バイオ関連事業を開始しました。 当社は、2002年に同社のバイオ事業を新設分割の方法で継承し、設立されました。

―― つまり、御社のバイオ事業は設立の30年以上前から続いているものなのですね。そのバイオ事業はどのようなものだったのですか?

当初は、寳酒造の新規事業開発の一環として担子菌などの研究を進めており、1970年には、日本で初めてブナシメジの人工栽培に成功しました。

バイオ事業のスタートは1979年でした。国内で初めて制限酵素を製造販売して遺伝子工学研究分野に進出したのです。
1988年には、PCR法による遺伝子増幅システムの国内独占販売権を米国企業より獲得。1995年には、遺伝子治療を目的とした高効率の遺伝子導入法(レトロネクチン法)を開発し、2年後の1997年、米国の研究機関によるレトロネクチン法を用いた遺伝子治療の臨床研究が 米国でスタート、これが遺伝子医療事業の始まりとなりました。

Q1-2:では改めて、御社の事業内容とその構成について教えてください。

A1-2:
当社の事業として現在、売上が最も大きな割合を占めているのは、遺伝子工学研究事業です(図表1-2)。バイオ分野の研究者向けに行っている研究試薬等が稼ぎ頭ですが、一部、研究受託サービスも行っています。

第2の収益の柱として育成中なのが、医食品バイオ事業です。機能性食品の素材開発や、大量生産技術を利用した生鮮キノコの製造販売を展開しています。

将来の成長事業として育成中であり、投資家の皆様からのご注目いただいているのが、遺伝子医療事業です。レトロネクチン®(編集室注:Q4にて詳述します)を用いた高効率遺伝子導入法及びリンパ球拡大培養法を核にした遺伝子治療・細胞医療の商業化を目指して、さまざまな臨床開発プロジェクトを推進しています。

図表1-1:売上高・営業利益推移

(会社説明会(2013年12月19日開催)資料:P3より引用)

図表1-2:14/03期第2四半期セグメント情報(連結)

(第12期 第2四半期決算説明会:P4より引用)

Q2: 御社の強み、他社との違いはどこにあるのでしょうか? 

■遺伝子工学研究事業

研究用試薬

Q2-1:研究受託の事業内容についてご説明ください。

A2-1:
この分野でグローバルに事業を展開できているのは、日本では当社だけだと思います。グローバルではベスト10以内の規模、日本では最大のバイオ研究支援企業といって良いでしょう。

当社は、自社開発・製造に加え、欧米メーカーの製・商品の輸入販売などにより、バイオテクノロジー全般にその領域を広げるために取り扱い品目を増やしてまいりました。2013年3月末現在、当社グループのカタログには5,000品目を超える製・商品が掲載されております 。

―― 海外についてはいかがですか?

2013年3月期の連結売上高に占める海外の割合は39.1%、約4割あります(図表2-2)。

アニュアルレポートのP2には事業拠点一覧と地図も掲載しておりますが、海外は大半が研究試薬の販売拠点となっています。
中国に2箇所とインド・韓国・ヨーロッパ、米国には2箇所。特に中国、そして現在のスケールはまだ小さいのですが、インド――これらの市場の成長力を取り込むのが課題ですし、海外の成長には期待しています。

図表2-1:売上高構成比

(クリックして画像を拡大:
2013年3月期決算説明会資料 P32より引用)

図表2-2:売上高構成比

(クリックして画像を拡大:
アニュアルレポート2013 P2より引用)

研究受託

Q2-2:研究受託の事業内容についてご説明ください。

これは、実験や研究そのものを契約ベースで大学や企業の研究機関から有料で請け負う、言い換えれば当社の研究開発能力・ノウハウそのものを「売っていく」 事業です。

業務として現在最も多いのは、DNAの配列解析業務ですね。この分野に関して当社はかなりノウハウを持っておりますし、専用の機器装置もあります。機器が高価だということもありますが、設備投資も含めて解析のスキルは特殊化されていますので、なかなか一般の研究者の方が気軽に実施する…というわけにはいかない部分なのです。

 

■遺伝子医療事業

受託サービス

Q2-3:先ほど遺伝子工学研究事業にも「研究受託」があるとお聞きしましたが、遺伝子医療事業にも「受託」があるのですか?これはどのような事業内容なのでしょうか。

A2-3:
はい。遺伝子工学研究事業の受託は、DNA配列解析などの基礎研究分野のものです。 これに対して、遺伝子医療事業の受託は、再生医療などの応用部分にあたります。

―― 再生医療などの応用部分?具体的には、どのような内容があるのでしょうか。

皆さんのご関心の高いところでは、iPS細胞作製受託サービスがあります。
我々は、遺伝子医療分野で20年以上培ってきた技術やノウハウは、iPS細胞・再生医療にも応用可能なのであり、当社は2009年からiPS細胞作製受託を事業として行っています 。

―― 御社が遺伝子医療分野で培ってきたどのような技術が、iPS細胞や再生医療に応用でき、iPS細胞作製受託事業に結びついているのでしょうか?

少し話が長くなりますが、順にご説明しますね。

再生医療とは、病気やケガ、あるいは老化など様々な理由で失われたり機能が低下したりした体の一部(臓器や組織など)を再び作る医療です。 再生医療で重要な役割を果たすのが、「幹細胞(かんさいぼう)」です。幹細胞には、もともと体内に存在しているもの(成体幹細胞)と、人工的に作製されたものがあるのですが、iPS 細胞は後者の一種で、体内のどのような細胞にでも分化できるという特長を持っています。だからこそ、再生医療の重要な役割を果たすもの*注1として期待されているのです。

iPS細胞の一般的な作製方法は、皮膚などの細胞を採取して体外に取り出し、体外で細胞に遺伝子を注入するというものです*注2
ノーベル賞を受賞した京都大学の山中教授とそのチームは、“山中因子”と名付けられた4つの遺伝子(初期化因子)を細胞に導入(注入)することで、ヒトiPS細胞を作製することに成功しました。この「遺伝子を細胞に導入する」という部分に、当社の技術が貢献できるのです。

遺伝子を細胞に導入する時には、ウイルスを用いた遺伝子導入用DNAである「ベクター」――遺伝子をウイルスに組み込み、細胞に感染させることで遺伝子を導入する、言うなれば「遺伝子の運び屋」――が使われます。

当社は、このベクターの開発や製造の技術、遺伝子導入細胞を製造する技術、遺伝子を効率良くベクターに入れる技術(編集室注:図表2-3の中にある「レトロネクチン法」。Q4にて詳述します)などに強みを持っています。 これらの技術を活用したのが、図表2-4の上半分に記載した「iPS細胞作製受託」事業です。

図表2-3:iPS細胞研究における
タカラバイオの技術

(クリックして画像を拡大)

図表2-4:iPS細胞関連事業

(クリックして画像を拡大)

(会社説明会(2013年2月14日開催)資料:P33,P31より引用)

注記(編集室作成)

注1:
「どんな細胞にもなれる」という点ではES細胞も同様の性質を持っていますが、こちらは倫理的な問題を抱えています。
ES細胞は生物の胚(生物の受精卵が細胞分裂をはじめ、個体の基本的な構造を作るための細胞分化を終えるまでの状態)を壊して作るのですが、胚はそのまま胎内にあれば生命体となるものですので、研究のために胚を壊したり操作を加えたりすることは許されないのではないか、という反対意見があるのです。

その点、iPS細胞は、採取に差し支えない体細胞(ヒトの皮膚細胞など)を使って作ることができるので倫理的問題が回避されるほか、患者自身の細胞から作製することができるため、分化した組織や臓器の細胞を移植した場合、拒絶反応が起こらないとも言われています。

注2:
遺伝子導入以外の方法でiPS細胞を作製する方法もあります。
ご興味のある方は、こちらの京都大学iPS細胞研究所ウェブサイトもあわせてご参照ください。

Q2-4:ベクター製造における御社の強み、特長は何ですか?

A2-4:
当社は、再生医療・遺伝子治療用ベクターを医薬品の製造基準であるGMP(Good Manufacturing Practice)に準拠して製造する設備・体制を確立しており、自社の遺伝子治療プロジェクトで使用する治験用ベクターの製造はもちろん、大学などの臨床研究に用いられるベクターの製造受託サービスを行っています。

日本国内で同様の事業に参入する競合企業は複数ありますが、当社は遺伝子導入細胞の治験を行った国内唯一の企業であることや、既に細胞医療の技術支援サービスやGMPに準拠したベクター製造受託なども提供しているという点において、当社が日本国内で技術的に最も進んでいると考えています。

Q2-5:現在、滋賀県草津市に新ベクターセンターを建設中と聞きました。これは再生医療関連の事業をスピードアップさせるためのものですか?

A2-5:
はい。 2013年8月に公募増資で109億円を調達いたしまして、調達資金は、新ベクターセンター新研究棟の建設などの設備投資資金や、遺伝子医療事業の臨床開発プロジェクト等への研究開発資金に充当させていただくこととなっております。

新ベクターセンターは、2014年10月に完成の予定です。この施設を中核に追い風の事業環境を最大限に活かし、当社は、バイオ医薬品の開発製造支援サービスであるCDMO(Contract Development & Manufacturing Organization、研究・製造受託)事業を加速させていきます。

Q3: 事業環境とその対応は? また、それに対応する戦略は?

Q3-1:2013年11月には、再生医療関連法が成立しました。これがQ2でご説明いただいた遺伝子医療事業の受託サービスにとって追い風になると聞いたのですが、具体的にはどのような影響があるのですか?

A3-1:
ひとつ大きく変わるのは、細胞加工の外部委託が実現されるという点です。
これまでの制度枠組みでは、治療の目的で、患者に投与する細胞の加工については、医療機関内にのみ認められていたのですが、新法の成立により、医療機関外への製造委託が認められることとなりました。

Q2-3でお答えしましたように、遺伝子導入細胞をGMP(医薬品の製造管理、品質管理基準)製造する技術を有し、細胞医療の技術支援サービス(細胞培養・加工)の実績もある当社にとっては、これは新たな事業機会であると考えております。

もちろん、追い風要因は細胞加工の外部委託だけではありません。
今、日本政府は再生・細胞医療の基礎的・臨床的開発のための研究資金を大幅に増加させることを打ち出し、先端医療分野の研究支援に力を入れていこうとしています。これは研究予算の増加につながりますので、基礎研究及び臨床研究分野に製品・サービスや技術提供を行っている当社の事業にとっては追い風となります。

たとえば、Q2-3でご説明しましたiPS関連事業には、図表2-4内にも記載しておりますように、受託サービスだけでなく、iPS細胞関連の研究に用いられる細胞や培地など汎用試薬の販売もあります。

図表3-1:遺伝子医療事業を取り巻く事業環境の変化

(会社説明会(2013年12月19日開催)資料:P13より引用)

図表3-2:周辺産業の市場規模の伸び

(会社説明会(2013年12月19日開催)資料:P14より引用)

Q3-2:再生医療自体の実用化には時間がかかるのではないかと思うのですが、CDMO事業はそんなに早く伸びるのでしょうか?

A3-2:
ご指摘の通り、再生医療の実用化はまだまだ先のことになるでしょう。
ですが、そもそもサイエンスとして始まったばかりのこの分野には、今後、多くの研究者や企業が参入すると考えられます。当社には、この研究を支援する体制と製品が揃っています。この分野ですでに遺伝子導入細胞のGMP製造技術を有し、細胞医療の技術支援サービス(細胞培養・加工)の実績もある当社が「サポーター」として活躍する機会は比較的近いうちに増えてくると期待しているのです。

―― なるほど、実用化以前にも研究部分の支援に事業機会があるということなのですね。

その通りです。再生医療研究のサポーティングインダストリーは、およそ3つの要素――サービスと消耗品と機器――から構成されます。これを再生医療周辺産業と呼ぶのですが、経産省の市場予測によれば、国内市場だけでも、市場規模は2012年の170億から2020年には950億、2030年には5500億、2050年には1.3兆円になると予測されています*注3。当社はこの市場である程度のシェアを取っていくことを目指しています。

注記(編集室作成)

注3:
上述の予測数値およびグラフは下記URLよりご覧いただけます。
http://www8.cao.go.jp/cstp/kyogikai/life/9kai/siryo4-3-3.pdf

Q3-3:御社は再生医療、細胞医療の市場で「サポーター」に徹するのですか?

A3-3:
いいえ、我々はサポーターとプレイヤー、両方の立場で事業を展開していきます。
サポーターについてはこれまでご説明した通りです。プレイヤーというのは、再生医療品を開発して市場に出していくということです。

当社の遺伝子医療事業では、自ら遺伝子治療薬の開発も行っています(Q4で詳しくご説明します)。改正薬事法における新薬の早期承認制度が遺伝子治療・細胞医療にも適用されれば、当社の臨床開発プロジェクトの商業化までの期間が短縮できる可能性もあります。

ただし、そうは言っても医薬品開発には非常に時間がかかります。ですから、先に立ち上がるサポーティングインダストリーにも力を入れることで、事業機会を広げていくというのが私達のスタンスですし、現在はそのために先行投資もしているのです。

Q4: 今後の成長戦略は?

インタビュー後編に続く 「今後の成長戦略は?」 >>

こんな質問が続きます!

――  遺伝子医療事業の全体像についてお伺いしたいと思います。受託(CDMO)事業の他にどのような事業があるのですか?

―― 遺伝子治療の臨床開発と、細胞医療事業における御社の強みは何ですか?

―― 遺伝子医療のパイプラインについて、特に注目すべきはどの開発品でしょう?