潜在数を含めれば国内に80万人存在するとも言われる、待機児童*1。その解消のためには新たな保育所の設置が望まれますが、一方で、多くの自治体は財政難に直面し、厳しい予算運営を迫られています。

こうした中で速やかに待機児童問題を解決するため、今、公的保育施設*2の運営を株式会社へと委託する自治体が増加しつつあります。サクセスホールディングス株式会社も、その運営委託を受けて業績を伸ばしている業界大手の1社です。

今回の取材は、なんと上場後初の本決算発表当日(2013年2月8日)に行われました。
「先ほど兜町で決算短信の“投げ込み”を終えたばかりなんですよ」と、手にはめた指ぬきを見せつつ笑顔でインタビューに答えて下さったのは、同社でIRを統括する管理部長の野口さん。病院内保育の現状、公的保育の課題と今後などについてお話いただきました。

*1:認可保育園に入所できない児童。
*2:認可保育園・東京都認証保育所、学童クラブなど。

Q1: 御社のビジネスは何ですか?わかりやすく教えて下さい

目論見書より:

当社グループは、持株会社の当社及び100%子会社の株式会社サクセスアカデミーにより構成されており、「受託保育事業」及び「公的保育事業」を営んでおります。

「受託保育事業」とは、病院、大学、企業などに勤務されている保護者向けの保育施設の運営を受託する事業です。「公的保育事業」とは、認可保育園や認証保育所、学童クラブや児童館、全児童対策事業施設といった公的な保育施設を運営する事業です。

―― 受託保育事業は「病院、大学、企業などに勤務されている保護者向けの保育施設」とありますが、特に多いのはどのような施設からの受託なのですか?

野口:
病院、特にベッド数が200~300の比較的大規模な病院が多いですね。当社の保育事業は病院内保育施設の運営受託から始まっておりますので。

看護師さんの勤務時間は非常に不規則で、夜勤もあります。このため、お子さんが生まれると仕事を続けることが難しくなってしまうことが多いのですが、病院の経営者としてはそこで退職して欲しくはないのです。

と言うのも、出産適齢期でもある勤務経験5~10年の看護師さんは、非常に頼りになる存在なのですね。色々な患者さんと接することができ、技術も確か。夜勤をこなす体力もあります。ですから、看護師さん達に出産後も安心して仕事を頑張ってもらえるようにと、私設保育所を院内に作っている例は多くあります し、厚生労働省も病院へ助成金を出しています。

―― 優秀な人材を確保するための手段のひとつなのですね。

野口:
はい。ですが、一方でこの院内保育の運営をアウトソーシング(外部委託)したいというニーズも強くありまして。

―― それはなぜですか?

野口:
看護師さんのシフトを調整するだけでも、経営側にとっては一苦労です。
そこに保育士の雇用とシフト調整も加われば、大変な業務が2つに増えてしまいます。しかも、病院はとにかく勤務時間が不規則ですから、「月曜から金曜の朝から夕方まで」の院内保育では看護師さんに活用してもらえません。
そこで、夜間や早朝に対応できる保育士を雇用し、休暇の調整や退職した時の補充対応もしていくとなんてとても対応しきれない――そういった悩みを抱えている病院はたくさんあります。

当社は、そうしたニーズにお応えする「24時間365日型」の保育を皮切りに、受託保育事業を伸ばしてまいりました。

―― 一旦アウトソーシングの良さを実感すれば「うちも依頼したい」とおっしゃる病院は多そうですね。

野口:
はい、おかげさまで。当社をご利用いただいている病院の事務長さんなどから、他の病院をご紹介いただき、新たな施設開設へとつながるケースもございます。

施設数

(クリックして画像を拡大:平成24年12月期決算説明会 P7より引用)

Q2: 御社の強み、他社との違いはどこにあるのでしょうか?

野口:
受託事業の立地が分散していることは、利益効率だけを考えれば必ずしも効率が良いとは申せません。ですが、今後当社が公的保育事業を伸ばしていく上では、これがプラスに効いてくる面もあります。

―― …とおっしゃいますと?

野口:
院内保育では、病院様が厚生労働省からの助成金を頂くための資料を作成し、自治体の担当窓口へと届出を行うことが必要なのですが、保育を当社が受託している場合これも当社が行います。つまり、保育を担当する行政窓口の方々に定期的にお目にかかることができるんですね。
こうした機会を活かして、当社の認可園運営実績をお見せしたり、(公設公営と比べて)どのぐらい運営コストが節減できるのかといったお話をしたりといったことができるのは、当社の大きな強みです。

こうした地道な営業活動の積み重ねは、公的保育の株式会社への委託加速というトレンドに乗って、今後成果に結びついてくるものと期待しています。

―― 待機児童の問題は都市部に限らないということなのでしょうか?

野口:
確かに、待機児童問題が深刻化しているのは首都圏を中心とする都市部です。

それはもちろん重要ですが、一方で、財政上の問題で公設保育所の運営コストに困っている自治体はどこにあるのかと言えば、それこそ日本中にあるのです。市の予算が限られている中では民営が最も良い選択肢である、そのようにご判断いただけるのであれば、首都圏などの都市部に限らず地方の自治体もお客様になる可能性は大いにあると言えます。

待機児童マップ

(クリックして画像を拡大:平成24年12月期決算説明会 P11より引用)

―― なるほど、理解しました。ところで、このように公的保育事業と受託保育事業の2事業を持っているのが御社の特長と考えて良いでしょうか?

野口:
はい。なかでも受託保育事業は当社の強みですので、今後は受託保育事業と公的保育事業を持つ強みを融合させ、一層相乗効果を発揮していくことが重要と考えています 。

相乗効果

(クリックして画像を拡大:平成24年12月期決算説明会 P16より引用)

Q3: 事業環境とその対応は? また、それに対応する成長戦略は?

―― ところで今、受託と公的保育の売上割合はどのようになっているのですか?

野口:
本日(編集室注:取材日は2013年2月8日)発表されたばかりの2012年12月期決算数値で申しますと、受託保育事業の売上高が約32億、公的保育事業の売上高が約39億となっています。

その1年前(2011年12月期)の決算ではほぼ半々という状況でしたが、2012年は公的保育が伸びまして、ついに受託を上回りました。

セグメント別売上高推移

平成24年12月期決算説明会 P19より引用)

―― 公的保育の伸びにはどのような要因があるのですか?

野口:
株式会社の認可保育園への参入が認められたのが、2000年。
当社が最初に認可保育園をやらせていただいたのが、2004年。
その後、認可園の数を少しずつ増やしてきたことで、自治体からその実績を認めていただけるようになっています。

加えて、待機児童問題と財政難の双方が深刻化する中で「株式会社への委託が最も良い選択肢である」と判断していただける自治体も増えてきた、それも追い風になっていると考えております。

―― 株式会社に公的保育への参入が認められてから10年以上が経った今、「委託が加速している」のはなぜなのでしょうか?

野口:
これは色々な要因がからみ合っていますので、順を追ってお話させてください。

まず、運営主体が株式会社かそうでないかということ以前に、保育園全体の数を計画的にどんどん増やすようになったこと、それ自体がここ数年の話であるということをまず申し上げたいと思います。

こちらの統計資料でご覧いただけるのですが、昭和60年代頃には共働き世帯自体がまだまだレアケースで、共働き世帯が専業主婦のいる世帯の数を上回ったのが平成6年頃。
その後、長引く不況と世帯年収の低下もあって共働き世帯が急増していきました。

その差が拡大し、しかも広がり続けていることが保育園の不足を生んでいる、しかもその傾向に歯止めがかかる様子はないことが認識され、やはり保育園を作らなくてはならないという意識が行政側で高まってきたのは、ここ数年のことです。

共働き世帯数推移、世帯年収推移

(クリックして画像を拡大:平成24年12月期決算説明会 P9より引用)

当社は、株式会社への委託が急速に進んでいくと見ています。
そう考えるだけの理由は、少なくとも3つあります。

理由1:自治体の財政難

一つは、自治体の財政が一層厳しくなっており、自治体が直営するよりも、民間に運営を委託するのが最も良い解決策となるためです。

編集室注:

東京都調布市が昨年(2012年)6月に公表した「調布市保育総合計画」(平成24年度~平成30年度)には下記のような記述があります。「公設公営」と、「公設民営(企業)」または「民設民営(企業)」との市負担額の差が非常に大きいことに驚きます。

「調布市保育総合計画」 p.43より:
全国的な生産年齢人口の落ち込みや市税収入の落ち込みが予想される中、保育園の運営経費についても、効果・効率性の観点から見直す必要があります。
また、ネットワーク保育システム「C-SO(シーソー)」を構築し、本計画の柱である「待機児童対策の推進」、「多様な保育サービスの提供」、「保育の質の維持・向上」を実現するためには、限られた財源の中で、効率的な運営をしていく必要があります。
全国的に民間活力の活用が推進されている中で、調布市でも、これまで民営保育園が公営保育園より先行して、多様な保育サービスを提供するとともに、安定し た運営を行ってきました。今後も、積極的に民間活力を活用し、保育サービスの充実と効率的な保育所運営のため、運営主体の見直しを検討していきます。

認可保育園運営主体別市負担額比較(定員100人の認可保育園を想定)

(クリックして画像を拡大)

理由2:株式会社が運営した「実績」の増加

株式会社への運営解禁から10年以上が経ち、株式会社による保育園の運営実績が高まっております。
その結果、「待機児童問題の解消には、株式会社の力が必要」というコンセンサスが、行政の担当者様達の間にも広がっています。

理由3:待機児童を「迅速に」解消していくために

「必要なところに」「必要な量だけ」施設を作る、実はこれは難しいことなのです。
限られた予算と時間の中で、株式会社なら立地の確保と施設の企画提案も行いますし、議会の許可が出てからのタイトなスケジュールの中でも確実に開園に間に合わせることができます。

―― これらの3点がドライバーとなって門戸の開放が進んできた時、株式会社にとっての保育園の市場規模はどのようになると見ておられますか?

野口:
日本政策投資銀行の試算によると、認可保育園を含めた保育園市場の規模は、2010年時点で3兆円と言われています。当社の試算によれば、待機児童を解消するために必要となる保育園の数は33,000箇所、市場規模では4兆円となります。

この市場拡大とともに成長できるよう、当社も着実に運営実績を積み上げています。2012年度は、直営認可保育園を6施設、公設民営保育園を1施設、公設民営こども園1施設を開園しました。これにより、2013年2月時点の認可園運営数は29であり、今春(2013年春)にはさらに5つの認可保育 園を開設できることが決まっています。

Q4: 今後の成長を見据えて取り組んでいることは?

―― 当面は需要が拡大する状況にあるし、その恩恵を享受できるだけの実績を積んでおられるということなのですね。

野口:
はい。そのように自負しております。あとはそれに応えるための人員の確保、つまり採用と教育をいかに計画的に、上手にやっていくかが課題になると考えております。

目論見書「対処すべき課題」より:

(4)保育の質の維持向上
当社グループは、平成24年5月末現在195施設の保育施設の運営事業を通じて、様々なご家庭の子育て支援に貢献しております。保育施設の数は、これからも増やしていく所存ですが、そこで提供する保育の質を維持向上させ、お客様にご満足いただけるよう努めます。
そのためには、当社グループ内外での研修や保育現場での指導により保育士を育成するとともに、多様化するお客様のニーズの分析を実施し、保育の質の維持向上に努めてまいります。

(5)人材の確保・育成
当社グループは、数多くの保育施設を運営しており、保育現場における人材の確保・育成は施設数の増加に伴い、重要性を増してきております。当社グループでは、採用の専門チームによる人材確保や、様々な研修プログラムの開発・実行、人事制度の見直しなど、総合的な取り組みをすすめます。

当社の場合、公設公営や社会福祉法人さん運営の施設に比べれば、どうしても平均年齢は若くなっています。ですがその分、研修、保育のレベルをあげたい、もっといい保育をしたいという向上心の高い方が多く集まってくれていますので、当社のスタッフが満足するレベルの研修教育を行うことで、もっといい保育ができる。

私たちはそう信じていますし、それによってより良い保育園が作れるのであれば、そこに時間もお金も惜しむということはなく、なんとかここまで研究しながら色々やってまいりましたし、実際、保育士からの満足度も高いと自負しております。

ただ、今後は(現在の公的保育の中心である)東京・神奈川だけではなく中部、関西と増えていきますので、どうすればよい効率的に、高いレベルで研修・教育を展開できるかはこれから考えていかなければならないですね。

―― 効率に関しては、目論見書では「事業効率の向上」の対処すべき課題のひとつに挙げられていました。
売上高営業利益率は上昇傾向にありますが、さらなる利益率の向上を目指しておられるということでしょうか?

目論見書「対処すべき課題」より:

(3)事業効率の向上
企業規模拡大に伴い、スケールメリットを享受するための事業効率の向上が必要となります。このため当社グループは、戦略的で機動的な経営を実施できる体制 を強化する目的で持株会社制を導入いたしました。
これまで以上に事業効率向上とマーケティング戦略やブランド力を強化すると共に、社会環境や事業環境の変 化に対応を図ります。具体的な取り組みとしては、業務の標準化、保育材料や給食食材の一括購入などによる原価低減、新規開設の事業計画の精査、管理業務一 つ一つの見直しや業務のアウトソーシング化などにより、より高い収益の確保に努めてまいります。

野口:
利益に関しては、正直まだまだですね。当社の場合、公的保育事業の中で新設園が占める割合がまだまだ高いので、そこが構造的に利益の足を引っ張るところがあるのです。

―― なぜ新設の園が占める割合が高いと利益が低くなるのですか?

野口:
新しい保育園を開設する時、定員は開設時から決められていまして、それを変えることはできません。ではその定員はどうなっているかというと、逆ピラミッド型、つまり年齢が高くなるほど増えるようになっています。これは仕方ないんですね、0歳や1歳から保育園に入ったお子さんが大きくなった時、「あなたは受 け入れることはできません」というわけには行きませんので…。

ですが、実際に開園した時の園児数はどうなるかと言うと、0歳から3歳は定員一杯になります。需要が強いですので…。ですが、4・5歳児の場合は、すでにどこかで保育されているため、なかなか定員に満たない状況となります。

一方で、保育士数はどうなるかと言えば、4・5歳が定員に満たなかったとしても、(定員まで入った場合と)同じだけ保育士を配置しなければなりません。また、開園のための準備費用も生じるため、どうしても保育園の新設には費用がかかってしまうのです。

―― 今後、公的保育事業の運営園数が増えて「新設」の占める割合が低下していけば、この影響は小さくなるということでしょうね。

野口:
おっしゃる通りです。分母(となる園の数)がどんどん増えていけば、安定して利益を出せるようになると考えております。

Q5: 個人向けIRの方針および個人投資家へのメッセージをお話し下さい。

―― それでは最後に、個人投資家へのメッセージをお願いいたします。

野口:
昨年(2012年)8月の上場以来、おかげ様で株価も順調に推移しており、投資家の皆さまからは非常にあたたかく見ていただいていると感謝しております。

当社はこういった事業ですから、急に売上が2倍になったり、利益率が大好転したりということはありません。施設数と実績の積み上げの中でじっくりじっくり業績を伸ばしていく企業ですから、株主の皆様にも長期保有の対象としてお考えいただけると嬉しいですね。

2013年は配当もしっかりさせていただきたいと考えておりまして、中間で15円(内、記念配当5円)、期末10円を本日の予想として公表させていただきました。そうしますと、あくまで現在の予算ベースではありますが、配当性向は35%ぐらいになります。当社としては、今後とも30%程度の配当性向を維持していきたいですね。

―― 本日はありがとうございました!