プレシジョン・システム・サイエンス株式会社(略称:PSS)は、バイオベンチャーの実質第1号企業として2001年にナスダック・ジャパン市場(現JASDAQ市場)に上場し、2012年2月には「第7回日本バイオベンチャー大賞」を受賞した企業です。

そんなPSSさん、さぞかし“白衣の人達”でいっぱいの研究所的な会社さんなのだろうなぁなどと想像しつつ、本社をお訪ねしたところ、そこには想像とは違う光景が・・・?!

警察科学捜査から新型インフルエンザ、そして今話題のiPS細胞まで知的興味が尽きない話題の数々、理科は大の苦手なインタビュアーが頑張ってお聞きしてまいりました!

Q1: 御社のビジネスは何ですか?わかりやすく教えて下さい。

―― 最寄りの北松戸駅で降りて、驚きました。本社までお伺いする間にあったのは、工場、工場、また工場で…。何度も道に迷いました。

田中:
ああ、このあたりは工業団地ですからね(笑)。当社は、遺伝子検査やタンパク質・免疫検査を自動化する装置を作る会社。その意味では、当社は製造業。「モノづくりバイオベンチャー」なんですよ。

―― モノづくりバイオベンチャー…初めてお聞きするカテゴリなので興味深いです。
では、順番に教えて下さい。まず、“自動化装置”とは、いったいどのようなものなのでしょうか?

田中:
具体的な導入例でお話しますね。
たとえば、献血。皆さんが献血で提供した血液は、輸血用の血液製剤として使われるまでには必ず検査が行われています。これは、輸血された血液を通じて、肝炎やHIV(エイズ)に感染することを防ぐためです。

1999年10月、その検査をさらに厳重なものとするために日本赤十字社は、世界で初めて献血の血液に「NAT検査(Nucleic Acids Amplification test:核酸増幅検査)」を導入しました。
その時に、当社のマグトレーション技術を活用したOEM製品*が使われることとなりまして。その導入以来、輸血後の血清肝炎の発生率は劇的に低くなったんですよ。

*OEM(original equipment manufacturing)とは、発注元企業のブランドで販売される製品を製造することです。またはそのような製品を製造する企業をいいます。 一般的には、販売ルートを持たない企業が、開発部門はもたない(または不足している)が販売網をもっている企業に対してOEMで製品を供給する場合が多いです。
PSSの場合は、世界の大手企業からの製造委託により、DNA自動抽出装置をOEMにより供給しています。

―― 核酸増幅検査?マグトレーション…??

田中:
核酸は、まさしく遺伝子の本体ですね。DNA(デオキシリボ核酸)と「RNA(リボ核酸)」の2種類からなる物質です。遺伝子の検査をするためには、まず、この核酸を取り出し(抽出)、解析ができる量にまで増やす(増幅)必要があります。

遺伝子検査はどのように行われるか

「マグトレーション(Magtration®)」とは聞きなれない言葉だと思いますが、それもそのはずで、 これは当社の造語です。“Magnetic Filtration(磁石によるふるい分け)”を縮めて作りました。

マグトレーションは、文字通り“磁力”を使って核酸(DNAやRNA)を取り出す、当社独自の技術。上図DNA抽出工程を自動化している点が画期的なんですよ。

PSS | Magtration® Technology 紹介ビデオ

―― なぜ自動化が重要なのですか?

田中:
DNA鑑定を思い浮かべていただければわかりやすいと思うのですが、遺伝子検査というのは、基本的に「間違ってはならない」ものに使われますよね?つまり、それだけ高い精度が要求される検査なのです。

ですから、ヒトを介在させずに検査を実施できるようにすることは非常に重要です。
検査した人の技術や習熟度によって結果が違ってしまったり、あるいは検査中にその人の髪の毛などの異物が混入してしまったりといったリスクは、自動化によって相当減らすことができますので。

さらに、その装置のつくりはシンプルで故障しないということが求められます。
日赤での血液検査や、警察の科学捜査に当社のマグトレーション技術が使われているのは、当社が遺伝子検査工程の一部でそれらを実現した結果なのです。

―― 「間違ってはならない」遺伝子検査は、今、どのぐらいの精度を実現しているのですか?

田中:
警察の科学捜査に使われるDNA鑑定では、誤差は4.7兆人に1人ですね。
先日の日経新聞によれば、全国の警察が昨年実施したDNA鑑定は約21万3千件。この10年で約80倍に増え、“指紋以来の捜査の大きな武器”になっているのだそうです。

その中には2009年に無罪が確定した足利事件、そして今年(2012年)、再審無罪が確定した東電社員殺害事件、その両事件の鍵となった再鑑定も含まれていますし、東日本大震災後の身元特定にも応用されたと聞いています。

―― 4.7兆分の1!えーと、世界の人口は…

田中:
世界の人口は約70億人ですから、分母に宇宙人を入れても大丈夫という計算ですね(笑)。

―― ほぼ間違いはない水準だと。

田中:
はい。これこそが遺伝子検査の検査工程を完全に自動化し「いつでも、どこでも、誰でも」できるものにすることを目標に技術開発・製品開発を続けてきた当社ならではの社会貢献だと自負しております。

アカデミックなノウハウがあっても、自動化装置がなければこれだけの精度は実現できなかった。そこに我々の存在意義があるのです。

―― 素晴らしいことですね!

Q2: 御社の強み、他社との違いはどこにあるのでしょうか?

―― ところで、先ほどは献血と科学捜査の事例をお聞きしたのですが、遺伝子検査には医療分野での活用事例もあるのですよね?

田中:
はい、もちろんです。
皆様にわかりやすい例で申し上げますと、新型インフルエンザでの遺伝子診断にも使われています。
2009年~2010年の新型インフルエンザ大流行に際し、WHO(世界保健機構)はウィルス検査のガイドラインを出したのですが、そこには、「検査の精度を確保するためには高品質で信頼のおけるDNA抽出が重要である」との指摘とともに、DNA抽出装置として当社がOEM供給している製品の名称が明記されました。

その結果、当社の技術を使ったこのDNA抽出装置は世界中の病院で採用されまして、世界シェアは当社推計で約50%に達しています。

―― 世界シェア50%!それはすごいですね。
ところで先ほどから2回ほど「OEM」というお話が出ておりますが…?

田中:
OEMというのは、相手先のブランドで製造することです。
契約先は、アメリカやヨーロッパの大手企業。現在、当社の売上は約80%が海外、OEM製品が売上の約90%を占めています。

取引先別/取引先地域別業績

(クリックして画像を拡大)

なお、直近の事業説明会の動画を会社 ウェブサイトのトップページよりご案内しています。

事業説明会の動画

―― グラフを拝見すると、OEM先として大きいのはRoche(ロシュ)とQIAGEN(キアゲン)なのですね。

田中:
はい。こちらの図でご覧いただけますように、ロシュは遺伝子診断市場のグローバルトップ、キアゲンも大手です。
第5位のAbbott(アボット)についても、本年3月、子会社向けの開発製造契約を締結しました 。ですから当社は、グローバル大手の主要企業の大半に供給をしていることになります。

世界の遺伝子診断市場シェア

(クリックして画像を拡大:第27回定時株主総会 資料より引用)

―― ライバル同士であるこれらの企業に技術や製品を提供することは問題ないのですか?

田中:
当社では、特許を基にして、各OEMメーカーの製品毎に個別の製造供給契約を締結するという「オープンアライアンス方式」の立場をとっておりますので、そういった契約が可能になるのです。
もちろん、知的財産についてしっかりと対策を立てていることは言うまでもありません。

―― 素朴な疑問なのですが、これらの大手企業はなぜ御社とOEM契約を締結するのでしょうか?DNA抽出技術を持っておられないから…ということではないように思うのですが。

田中:
もちろん、技術は持っておられますよ。ですが、そこは当社の技術コンセプトである「シンプル、コンパクト、メンテナンスフリー」のメリットをご評価いただいているものと考えております。

Q3: 事業環境とその対応は? また、それに対応する成長戦略は?

―― 「シンプル、コンパクト、メンテナンスフリー」――それは先ほどお話のあった「いつでも、どこでも、誰でも」を実現するための具体策なのですね。
その先には、貴社の技術が活用される領域の広がりを見据えておられるという理解でよろしいでしょうか?

田中:
はい、その通りです。
こちらのアニメーションコンテンツでは、テーラーメイド医療から、ペット向け診断、DNA鑑定、温泉のレジオネラ菌検出まで、様々な活用範囲を例示しました。

「シンプル、コンパクト、メンテナンスフリー」で、しかも「誰にでもできる」が実現すれば、遺伝子検査だけでなく、タンパク質や免疫、あるいは細菌検査など様々な検査がもっと高い精度で、さらに手軽に活用されるようになる。
それこそ、人間ドックでの診断やスポーツクラブでの生活改善指導のためにその場で診断するなど、予防医療的な使われ方も広まり、私達の生活の質(Quality of Life)もさらに向上していく、そういった未来を描いています。

早わかりPSS

(視聴にはFlash playerが必要です) (クリックして「早わかりPSS」にリンク」)

田中:
また、PSSの目指している潜在市場を下図にて想定しています。

PSSの目指す市場動向:バイオ診断市場

(クリックして画像を拡大)

―― 潜在市場は大きい中で、実際に(御社が)とっておられる市場はまだそんなに大きくない、ということでしょうか。その理由はどのようなものですか?

田中:
いくつかの理由があります。
それこそがまさに、当社自身が、これからさらに成長していくために超えるべき課題、ハードルとなっておりますので、一つずつご説明させて下さい。

(1)遺伝子検査における課題を解決(前処理工程の自動化)

本日、冒頭でDNA検査には「抽出」→「増幅」→「検出解析」という工程があるとお話しましたが、現在、当社が主にお手伝いしているのは「抽出」の部分です 。ですが、遺伝子検査が普及するためには、「検出解析」部分にまだ課題が残っているのです。

(再掲):遺伝子検査はどのように行われるか

―― 具体的にはどのような課題が?

田中:
検出解析は、核酸の配列を読み取ることから始まります。
この作業自体が大変なのですが、遺伝子検査で世界をリードする米国では、これを極めて高速に大量処理できる「次世代シーケンサー」(DNA配列解析装置。以下、NGS)の開発が進められており、その性能も年々向上しています。

ですが、このシーケンサー解析に必要なサンプルを高品質に調整する「前処理工程」は、未だ複雑な技術を要する手作業に依存しており、時間がかかる上に人為的なミスも出やすい。この部分が次世代シーケンサー普及の妨げになっているのです。

―― 手作業が課題…ということはここでも「自動化」の出番ですか?

田中:
その通りです(笑)。
当社は強みである自動化技術を活かしまして、多様な用途への応用が可能な前処理自動化装置「SX-8G Compact」を開発し、欧米市場に投入しました。

SX-8G Compact

(クリックして画像を拡大:会社説明会資料 P10より引用)

「SX-8G Compact」の市場は徐々に広がりつつありまして、米国市場ではIntegen X社と提携し(ソフトウェアの共同開発と共同ブランドでの展開)、欧州市場ではDiagenode社(ベルギー)にエピジェネティクス解析*向け仕様として供給しています。

*エピジェネティクス
クロマチン(細胞内に存在するDNAとタンパク質の複合体)の形状変化により遺伝子発現が制御される
「スイッチング」について研究する学問分野を指すもので、特に癌や老化など、後天的な体質形成に深い関係があることが明らかになってきました。
詳細はPSSホームページ「バイオ基礎講座第3話遺伝子の働き(2)」をご覧ください。

また、DNA自動抽出装置を既にOEM供給しているライフテクノロジーズ社との契約の対象をNGS前処理装置に拡大し(従来はDNA自動抽出装置のみ)、ライフテクノロジーズ・グループの主要企業で、シーケンサーの名門企業でもあるアプライド・バイオシステムズ(ABI)社に対して、「SX-8G Compact」と同機能を持つNGS前処理装置を、OEM供給しています。

話はそれだけではありません(笑)。
さらに、最近においては新たな新展開がありました。

大手OEM供給先のロシュ社に対して、次世代シーケンサー解析向けの「増幅」工程を含めた全自動前処理装置の開発契約を締結しました。
これにより、シーケンサーの解析処理を単純化する事を可能にし、従来より人手の作業に数時間かかっていたのが、数分間となる事により、大きな作業時間の削減になるが期待されています。

(2)POCT市場をターゲットにしたオールインワン自動解析装置の開発

田中:
今後当社が目指すべきは小病院やクリニック等などのPOCT(Point of Care Testing)、つまり患者さんの身辺で行われる小病院、クリニック検査向けの市場です。そのためには、「全自動化」と「領域の広がり」、そして「小型化」が重要です。

―― 全自動化とは?

田中:
「抽出」→「増幅」→「検出解析」のDNA検査工程のうち、当社が主にお手伝いしているのは「抽出」の部分だというお話をいたしましたが、今、当社はいよいよ全行程の自動化――DNAの抽出から増幅、検出、測定までを一貫して自動処理する全自動遺伝子解析装置「geneLEAD®」シリーズの製品化に取り組んでいます。

geneLEAD®

(クリックして画像を拡大:会社説明会資料 P11より引用)

「geneLEAD®」はエイズや子宮頸がん等の原因となるウィルス(HIV、HBV、HCV、HPV等)や薬剤投与前の遺伝子検査に対応するもので、プロトタイプの開発が完了し、現在、性能評価の段階に入っております。

―― それは楽しみですね!ところで、領域の広がりというのは?

田中:
「オールインワン自動解析装置」を開発しているのは、DNA検査向けだけではありません。
全自動免疫測定装置「LuBEA®」、小型生化学分析装置「SpeLIA」等の開発も完了しておりまして、これらも現在、性能評価を行っています。

「LuBEA®」は抗体が抗原と反応する性質を利用した測定装置で、特異アレルギー、甲状腺関連ホルモン、癌マーカー等の測定が可能になります。
「SpeLIA」は、肝機能や脂質代謝、腎機能や膵機能、糖尿病等の診療前検査を想定しておりますが、人を対象にした検査よりもハードルが低いイヌCRPやネコSAA等の検査向けで販売を開始する予定です。

これらの「オールインワン自動解析装置」は、必ずしも技術力の高いスタッフがいるとは限らないPOCTの医療現場でも専門性の高い解析を可能にするはずです。
もちろん、いずれも小型の装置ですので、小規模な医療現場にも十分置いていただけます。

PSSの目指す全自動診断システムとは?「ボタン一つで診断」

(クリックして画像を拡大:個人投資家向け会社説明会(2012年12月開催)資料より引用)

13年には臨床研究市場で販売を開始し、14年には臨床診断市場に展開する計画ですので、是非楽しみにお待ちください。

(3)消耗品ビジネスへの進出

最後になりましたが、当社の業績はまだまだハードウェア、特にDNA抽出装置に依存するところが大きいです。

もちろん、ここでお話した別領域での全自動化装置が実用化し、市場が拡大すれば業績を支える要因が増えていくことになるのですが、ここでもうひとつの柱として育成したいと考えておりますのが、(各種装置に使う)プラスチック消耗品および試薬・診断薬ビジネスですね。

―― 確かに消耗品ビジネスは利益率が高そうですね!試薬・診断薬ビジネスの展開も楽しみです。

Q4: 個人投資家の皆様へのメッセージをお願いいたします。

田中:
今後の売上成長については、下記のようなイメージを持っております。

まずは、現在の主力事業であるDNA抽出・精製装置(1)。
こちらは安定的に伸ばしつつ、「DNA自動抽出装置依存体質」からの脱却に向けて、他の事業を育成してまいります。
具体的には、既に製品化しているシーケンサー前処理装置システム(2)を伸ばすことに加え、先ほどお話したPOCT市場向けの免疫・生化学測定システム(3)と全自動遺伝子診断システム(4)を予定通り上市し、伸ばしていくこと、そして検査試薬・臨床診断薬ビジネスを育成していく(5)ことが重要と考えております。

PSS主要事業分野の売上成長イメージ

(クリックして画像を拡大)

―― まずは2013年、2014年が大きな転換点となりそうですね!

田中:
はい。当社は、日本の強みである製造業とバイオテクノロジーを融合させることで、世界の人々の健康に一役買っている企業です。皆が健康であるためには、例えば病気の予防診断、早期発見、適切な治療は必要になります。

当社は「自動化」を核として、その実現に必要な装置の開発や製品の供給を行うことで、業界にブレイクスルーを起こしたい。社長はいつもそう申しておりますし、私たちとしても同じ気持ちです。

当社は、確実に伸びていく市場で確固たる技術を持ってビジネスをしております。
そこにご信頼とご期待をいただき、株主として当社の経営にご参加いただけましたら大変嬉しく存じます。

―― 本日はありがとうございました!

編集メモ:
田中さんからは当日、「実はPSS社の連結子会社であるジェネテイン株式会社は、ノーベル賞を取った山中教授のiPS細胞分野において、PSSの自動化技術を活用する事により、iPS細胞の実用化に向けた品質評価のお手伝いしているんですよ!」 とのお話をいただきました。
詳しくは下記リリースをご参照ください。