本日のインタビューは、株式会社ニチイ学館(証券コード:9792)です。
医療、介護に教育、そして、保育。まさにアベノミクス"3本目の矢"である成長戦略のキーワードを並べたかのような事業ドメインを持つ同社は、国民皆保険制度を受けて誕生し、現在では医療関連介護ともに国内第1位のシェアを持つ業界トップ企業となっています。
同社の歩みと課題、今後の成長戦略について、IRを担当する経営企画本部の石川さん、大津さんにお話をうかがいました。

Q1: 御社のビジネスは何ですか?

Q1-1:創業の経緯と事業構成について教えてください。

A1-1:
当社の創業は、1961年の国民皆保険制度制定がきっかけでした。
国民のだれもが医療サービスを受けられるようになり、患者数が急激に増えた結果、医療事務――具体的には診療報酬の複雑な計算作業や病院の受付、カルテ管理など――が大量に必要となった病院等に対して、アウトソーシングサービスを行う医療関連事業を開始しました。そして、それらの業務に対して専門的な人材を育成し供給するという教育事業もほぼ同時期にスタートし、「教育から就業まで」というビジネスモデルで事業を全国展開へと発展させてまいりました。

その後、2000年の介護保険制度施行を見据え、教育事業において、介護をする人を育ててサービスにつなげていくという医療と同様のビジネスモデルにより介護事業に参入しました。当初は訪問介護等の在宅介護のみでしたが、2007年には㈱コムスンからグループホーム(認知症の方の共同生活施設)や有料老人ホームといった居住系介護を中心に事業を承継し、ニーズに合わせた事業展開を進めることで成長してまいりました。

また、教育事業では安定的な事業ポートフォリオ構築を目指し、2011年から語学事業に参入しました。グローバル化の進展による多様な語学習得ニーズに対応するべく、一貫した語学ネットワークの構築を推し進め、グローバル人材の育成に努めております。

図表1-1:創業からの歩みと医療・介護保険制度の変遷

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図表1-2:売上高の推移

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図表1-3:営業利益の推移

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図表1-4:事業別ハイライト

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Q2: 他社との違いや強みは?

Q2-1:医療関連事業の強みについてご説明ください。

A2-1:
この分野における当社の市場シェアは約55%、契約医療機関数は9,874件と、圧倒的な首位となっています(編集室注:第2位は株式会社ソラスト(旧日本医療事務センター))。当社には、創業時から現在に至るまで40年以上にわたって積み上げてきたノウハウがあり、人材の質の高さによりお客様(=病院・診療所等)から「ニチイの医療事務であれば安心」との認知をいただけていると考えております。

―― 契約後は、切り替えなどはあまり起きないのでしょうか?

契約形態としては、基本的に1年契約なのですが、実際には契約が継続されるケースが大半となっております。と申しますのも、病院には2年に1度診療報酬改定がありますので、1年ごとに事務担当が変わることは現実的ではないのです。もちろん、病院の建て替えや移転など、大きな変化のタイミングでは契約の見直しもありますし、当社としてもそういった機会には積極的に新規契約の取得を目指します。

Q2-2:教育事業を保有しておられる強みについてご説明ください。

A2-2:
「教育から就業まで」のビジネスモデル(図表1-4)は、創業以来一貫して当社の大きな強みとなっております。医療・介護分野は人材の確保が非常に難しい分野ではありますが、教育事業を保有することで、私たちは、効率的かつ安定的に質の高い人材を確保し、各セグメント(医療関連、介護、ヘルスケア)に供給することができているのです。

―― 他社にも同様なビジネスモデルをとっておられる企業はあるのですか?

他社の中にも、そういった形で展開しておられる企業はありますが、これほど圧倒的な規模で全国展開しているのは当社だけになります。

図表2-1:基本的なビジネスモデル

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Q2-3:介護事業はどのような点が強みなのでしょうか?

A2-3:
介護サービスにおいては、利用者およびその家族が、介護計画を立案するケアマネジャーと相談しつつ、介護レベルに合わせてどのようなサービスをどのぐらい利用するかを決めていきます。その際、たとえばホームヘルプサービス(訪問介護)とデイサービス(通所介護)のように、複数のサービスを組み合わせて利用されることは多いのですが、これらをすべて別々の事業者からサービス提供を受けるよりも、同じ事業者からサービス提供を受けるほうが、利用者にとってもケアマネジャーにとっても負担が少なく、安心してサービスを利用できるというケースは多くあります。この点、当社には在宅系から居住系まで幅広いサービスをご提供させていただいておりますし(=「トータル介護サービス」体制)、当然サービス間の連携もとっておりますので、そこは大きな強みとなっております。

Q2-4:図表1-4を見ますと、「介護・ヘルスケア部門」は売上、利益ともに全体の5割を超えています。利益も毎期伸びているようですが、その主要因は何ですか?

A2-4:
高齢化の進展に伴う当社サービス利用者の増加や、介護拠点の複合的な展開などの要因に加えて、居住系サービスの利益貢献によるところも大きくなっております。
2007年の(コムスンからの)事業承継時点では未開設の物件なども多くあったのですが、それらも順次稼働し、運営ノウハウも蓄積してきたことにより、2009年以降は収益が非常に安定し、利用者数の増加が売上と利益の成長につながる体制となってまいりました。

図表2-2:主なサービス拠点数

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Q2-5:介護拠点の開設を積極的に進めておられるとのことですが、これは「全国展開」なのでしょうか?それともエリアを絞っての展開になっているのでしょうか?

A2-5:
介護事業の参入当初より「全国展開」であり、それを可能にしたのが、全国に98ある支店網の活用と、教育事業、医療関連事業との連携になります(図表2-3)。
介護は、保険制度上は全国画一ですが、運営は自治体単位になるため、地域の特性により必要となるサービスも異なります。そのため、各支店がハブとなり、地域ニーズに合致する最適な拠点展開や事業間連携を図ることができるのが当社の強みになります。これにより、語学事業や保育事業等の新サービスの全国展開もスムーズに進めることができます。

図表2-3:ニチイグループの全国ネットワーク

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Q3: 事業環境とその対応は? また、それに対応する成長戦略は?

Q3-1:介護分野は、成長戦略における「戦略分野」のひとつとされている一方で、社会保障・税一体改革の中では「徹底した給付の重点化・効率化」が必要とも言われており、産業として見た時に、どこがどのように成長していくのか見えにくいようにも思います。御社はこの事業環境をどのようにとらえ、どういった部分に注力していくお考えなのでしょうか?

A3-1:
財源の制約がある中で高齢化がどんどん進展していきますから、介護報酬については、トレンドとして今後ますます厳しくなってくると見なければならないと思います。ただし、そういった中においても、認知症への対応や医療介護連携の強化、生活支援の活用は政府の方針として示されています。当社としてはこうした事業環境を鑑み、通常の在宅系や居住系介護サービスなど全体を伸ばしつつ、これらの分野、介護保険外サービスにも力を入れることで収益力を強化し、介護報酬改定や制度変更等の影響を受けにくい事業体質を作ってまいりたいと考えております。

 

認知症への対応

Q3-2:認知症対応に関しては、具体的にはどのような戦略をとっていかれるのですか?

A3-2:
グループホーム(認知症対応型共同生活介護)の「ほほえみ」を展開強化していきます。
むろん、居住系の施設は私どもの都合で新設できるわけではなく、自治体の設置計画に応募し、選ばれた事業者が設置できるというかたちにはなります。ただ、当社は、2013年9月末現在で253件の「ほほえみ」を設置・運営しており、これは1社の事業者としては非常に多い実績でありますし、自治体からも一定の評価をいただいておりますので、引き続き、公募案件をできるだけ多く獲得することで、展開を強化し、また、地域の皆様に貢献していきたいと考えております。

―― 具体的な設置棟数の計画はあるのですか?

基本的には公募となりますので、当社が予定した通りに設置できるというわけではありませんが、施設全体の目安としては年間で30ヶ所程度、うち、「ほほえみ」は15~20ヶ所程度増やしていきたいと考えております。

Q3-3:医療介護連携に関しては、どのような分野に力を入れて行かれるのでしょうか?

A3-3:

医療介護連携

地域での医療介護連携、在宅での医療介護をサポートしていきます。具体的には、2014年3月末までに100ヶ所の設置を目標に、訪問看護の拠点(=訪問看護ステーション)整備を進めています。これらはもちろん、訪問看護だけではなく、基本的には訪問介護なども併設した拠点となっておりますので、利用者にとっての利便性の高さはもちろん、当社の介護事業の収益性を高める効果もあります。

 

保険外サービス(生活支援)

在宅での介護となりますと、たとえば外出への付き添いやお買物のお手伝い、ご自宅の整理整頓のような、介護保険では対応できない部分のケアもこれまで以上に重要となります。
当社としましても、こういった家事代行やおむつの販売、あるいはお弁当を届ける「食卓ヘルパー」などの保険外の介護サービスに一層力を入れることで、将来的には介護とヘルスの売り上げの合計に対する25%くらいには介護保険外のサービスをしていきたいと考えています。その姿勢を明確にする意味も込めて、今期(2014年3月期)より、従来のヘルスケア事業を「介護事業」と「ヘルスケア事業」へと組み換えいたしました。

図表3-1:セグメント変更について

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介護保険外サービスに力を入れることは、収益体質の強化という観点からも大変重要です。(介護保険内の)介護事業は、どうしても介護保険制度や介護報酬の改定に影響される部分が大きいのですが、ヘルスケア事業が伸びることで、その変動による影響を相殺することができます。

Q4: 今後の成長戦略は?

Q4-1:今後の成長戦略について、方針と戦略をお聞かせください。

A4-1:
当社は、現中期経営戦略(2013年3月期~2017年3月期)において、目標とする経営指標に
・売上高前年対比2桁成長
・営業利益率7%以上
・ROE 15%以上
を掲げています。
この目標を達成するためには、事業基盤の強化と領域の拡大が必要と考え、当社は2011年から新規分野への戦略投資を続けてきました。

図表4-1:成長戦略に向けたニチイの新サービス展開

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図表4-2:戦略投資の進捗

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Q4-2:戦略投資の核となっている教育分野についてお尋ねします。御社は創業以来、医療や介護の人材を育成する教育に力を入れて来られましたが、2011年9月のGABA子会社化を皮切りに語学分野に参入されました。これはなぜなのですか?

A4-2:
(従来の教育事業である)資格講座は、景気や雇用環境に左右されやすいという性質を持っています。景気が悪い時期には、皆さん、資格を取ろう、手に職をつけて働こうという意識が非常に強くなるのですが、景気が安定したり回復したりすると受講生は減少するため、その安定化が必要と常々考えておりました。
2011年にマンツーマン英会話GABAの売却という話があり、検討した結果、語学事業は、基本的に景気と相関関係にある(=景気が良くなれば語学講座の受講生も多くなる)ことから、景気とは逆相関の関係にある従来の教育事業を補いうるものであり、かつ市場の成長性、他事業とのシナジーが見込めるとの結論に至り、子会社化するという形になったのです。

編集室注: ニチイ学館が語学事業に注力する理由は、ダイヤモンドオンラインの下記記事も併せてご参照ください。
http://diamond.jp/articles/-/25052?page=5

―― 御社の教育事業は、これまで医療・介護の両事業と強いシナジーを持っていました。しかし英会話教室については、そのシナジーが働かないのではないでしょうか?

いえ、これに関しても他事業とのシナジーを念頭に置いております。
たとえば、今後は医療分野においても国際化の進展が見込まれます。外国人の患者さんも増えますし、国際医療交流もある、そういった中では当然、語学のスキルを持ったスタッフの派遣も必要となるでしょう。まだごく一部ではありますが、語学スクールCOCO塾ではドクターや看護師などの医療事業従事者向け専門コースなども開講しております。

語学事業ではないのですが、医療の国際化に関連して申し上げますと、当社は2013年10月、シンガポールで「ニチイインターナショナルクリニック」を開業しました。多言語診療や日本の医療機関との連携、国際医療交流の先進国であるシンガポールの病院経営ノウハウなどを当社に蓄積することで、グローバルな医療従事者の育成に貢献するとともに、病院の経営支援にも役立てていきたいと考えております。

図表4-3:シンガポールにおけるクリニック経営

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Q4-3:もうひとつの戦略投資である「保育事業」についてもお聞かせください。

A4-3:
「ニチイキッズ」のブランド名で、保育園の受託・設置を進めております。
当社は、医療関連事業を営んでおります関係で、以前から病院の職員向けの院内保育を営んできました。そこで培ったノウハウを展開する形で、認可保育園や直営、企業内の保育園を運営しております。

―― 認可園の開設にあたっては自治体から選定されなければなりませんが、この点に関し、御社が介護事業で培った自治体との関係が活かされるといったことはあるのでしょうか?

むろん(自治体の)窓口は異なりますが、介護事業、そして医療関連事業で培った信用はもちろんあり、それが貢献している部分もあると考えております。そういったこともあり、ここ数年、徐々に徐々にではありますが、(保育園の)受託・設置件数を伸ばしているというところがございます。

Q2-5でも申し上げましたように、当社は全国各地に拠点を作り、事業を展開していくというスタンスですので、保育施設についてもやはり全国各地に作っていくことで、それぞれの地域で女性の社会進出に貢献していきたいと考えております。

2015年度に開始される予定の子ども・子育て支援新制度は、(保育園事業への)民間企業参入を非常にしやすくします。当社はこれを機に、今後、保育園の展開を加速していきたいと考えております。語学事業においても、この「子ども・子育て支援新制度」の開始を見据え、保育事業とのシナジー創出――具体的には、COCO塾の講師が保育園に出張し、英語を教える――を念頭に参入した背景があり、英会話レッスンを全国の保育園で導入を進めております。

Q5: 個人向けIRの方針および個人投資家へのメッセージをお話し下さい。

Q5-1:保育事業で働く女性を支援していくというお話をうかがいましたが、実は御社自身も非常に女性の登用が進んでおられるのではないでしょうか?

A5-1:
当社はもともとスタッフにも非常に女性が多いのですが、管理職や役員にも女性が多いです。 2013年6月の段階で、当社は女性の役員比率が27.8%、女性の管理職比率も69.1%ですので、女性が活躍しているというのは当社ではごく当たり前の光景となっております。私自身も女性ならではの視点や感性などの面が、当社のサービスや商品に反映されていると感じることはしばしばございます。

Q5-2:利益還元の方針についてお話ください。

A5-1:
安定且つ継続的な利益還元が、当社の基本方針です。
戦略投資等の関係で、現在は2期連続の減益予想とはなっておりますが、利益還元につきましては、今後の長期安定成長を見据えて5期連続の増配を予定しております。

株主の皆様への還元、そして成長に向けた投資を継続していくためにも、教育事業の損益改善は急務と認識しております。教育事業を早期に黒字化し、「第三の柱」へと育成していくとともに、医療関連事業で安定的な収益を創出、介護・ヘルスケア事業で市場同等の成長を果たしていくことで、中期経営戦略の目標は達成できるものと考えております。

Q5-3:投資家の皆様へのメッセージをお願いします。

A5-3:
まさに経営理念にもございますように、私どもは社会的なインフラの発展、そして人間生活の向上に貢献できるよう、10、20年先を見据えて一心に事業に取り組むことで、皆様の生活に不可欠な企業として、中長期での利益成長を目指します。

図表5-1:社是・経営理念

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―― 本日はありがとうございました!