最近東京ではグッと増えた、電車ホームの転落防止ドア。東京だと東京メトロ南北線などで見かける、床から天井まで全て覆う「プラットホーム・スクリーン・ドア」分野では国内95%ものシェアを誇るのがナブテスコ株式会社 です。
「うごかす、とめる。」のキャッチコピーそのままに、様々な機会の可動部分に同社の製品が使われています。

同社の売上2000億に対し、営業利益率10%は、製造業では驚異的な利益率。
どうやってこの利益率を実現しているのか、IR担当部長の松本さんにお話を伺いました。
「グローバルな人材が社内にいない」と悩んでいる方に、業種を問わず非常に参考になりますよ!。

Q1: 御社のビジネスは何ですか?また、強みはどこにありますか?

―― ナブテスコさんといえば、電車の中の広告でアニメーションを最近、良く見かけるようになりました。アニメーションはもちろん、最後に表示される「うごかす、とめる。」という端的なコピーが印象に残りますね。

ナブテスコCM

ナブテスコ社動画CMにリンク)

松本:
ありがとうございます。
当社の核になっているのが「モーションコントロール技術」で、企業理念にもこの言葉が出てくるのですが、個人の方々にとってはこの言葉からして既にわかりにくいようなのです。
「モーションコントロール」って何ですか?と、そこがまず当社を理解していただく際のハードルになってしまっていて。

どのようにご説明すればわかっていただけるんだろう、そう悩みながら工場を見て歩いておりましたら、大体どれもグルグル動くか、パッと止める動きをしていたんですよ。
それで「うごかす、とめる」というコピーを思いつきました。

―― その「うごかす、とめる」御社の製品は、ウェブサイトやアニュアルレポートを拝見しますと、世界で、あるいは国内で非常にシェアの高いものが多いのだと知り、驚きました。

8つの高シェア商品をご紹介(アニュアルレポート2012より

【自動化関連】

産業用ロボット精密減速機:世界市場シェア約60%

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レトルト食品用充填包装機:国内市場シェア約85%

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【建設】

パワーショベル用走行モーター:世界市場シェア約30%

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建物自動ドア:国内市場シェア約50%、世界市場シェア約20%以上

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【運輸】

鉄道車両用ブレーキ制御装置:国内市場シェア約50%

鉄道車両用ドア開閉装置:国内市場シェア約70%

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プラットホームドア・スクリーンタイプ:国内市場シェア約95%

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商用車用ウェッジチャンバー:国内市場シェア約70%

商用車用エアドライヤー:国内市場シェア約85%

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船舶用主推進遠隔制御装置:国内市場シェア約60%、世界市場シェア約40%

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【航空機器】

フライト・コントロール・アクチュエーション・システム:国産機向けシェア100%

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編集室注:
ナブテスコの主要製品群については、アニュアルレポート2012の他、会社案内でも詳しく紹介されています。併せてご参照ください。

―― プラットホームドアは地下鉄の駅でよく見かけます。最近導入が増えていますね!
それにしても高シェアの製品が揃っていますね。この中で特に力を入れているものというとどれになるのでしょうか…?

松本:
これらすべてに力を入れているんです。当社は合併会社ですし、撤退の基準も大変厳しいですから、不採算な事業の整理はすべて終わっておりますので。

―― なるほど、「選択と集中」のフェーズはもう終わっているということなんですね。

松本:
はい。ですから、ここでご紹介させていただいた主要製品はすべてマーケットシェアが高く、当社にとって重要なものです。
これらに関しては、近い将来にやめてしまう、あるいは売却するといった考えは全くないですね。

―― これだけの製品種類、あるいは事業分野がありますと、事業環境変化にも対応しやすいのでしょうね。

松本:
そうですね。機関投資家の方々には、最近「ポートフォリオ経営」とおっしゃっていただいています。
リーマンショックの時には、特にその効果が顕著になりました。

当時、世界中の産業界が設備投資を控えてしまった中で、中国が4兆元のスティミラスパッケージ(景気刺激策)を打ち出しまして、これが主にインフラ関係だったんです。それによって、当社の建機向け事業(油圧機器)と鉄道車両用機器が大きく伸びました。

その結果、日本の機械メーカーのほとんどが赤字になった中でも、当社は、リーマンショックの翌年にある程度の利益を確保することができ、その後のV字回復につながりました。

―― 一方で、これだけシェアの高い製品をたくさん持っていると、今後シェアを上げていくという戦略は取りにくいのでは?と思われるところがあるのですが。

松本:
ご指摘の通り難しいものもありますが、国内を中心にシェアが高いものは海外展開で、世界的にシェアの高いものについてはそれを維持していくことと、新しいマーケットへの進出、今まで我々の製品が使われていないところへの展開を図ることで成長を目指します。

Q2: 事業環境をどのように見ていますか?また、対応する成長戦略は?

―― それが現中期経営計画を「Global Challenge」とされた理由なのですね。
この中計期間(2013年度まで)とその後数年間というレンジで見ると、成長を牽引していく分野は、先ほどご紹介いただいた製品群のどのあたりになるのでしょうか?

松本:
成長エンジンは精密減速機、油圧機器、自動ドア、それから鉄道車両用機器の4つです。
もちろん他の製品、事業分野でも十分マージンの強化などをしていくことができると思っておりますが、投資家の皆様には、この4つを中長期的な成長エンジンとしてご注目いただきたいですね。

●成長エンジン1:精密減速機

―― 精密減速機の市場について教えていただけますか?

松本:
産業用ロボットは、今後とも年率8%の成長が見込まれる成長市場なんです。
ですから精密減速機は今後も確実に伸びていきます。

―― それはすごいですね。何故そんなに高成長なのでしょうか?

松本:
先進国では、少子高齢化の対策として。
新興国では、労働者の賃金が上昇を続けていることへの対応と、品質の安定ですね。

―― なるほど。先進国と新興国、両方の市場で、それぞれの理由で伸びるのですね。

松本:
はい。当社のお客様においても急速な事業拡大が進んでおりますので、増産ニーズに応え、新興国市場の需要をいち早く取り込むべく、当社は前期(2012年3月期)に従来の10年分に匹敵する大型投資を実施しました。
これにより、2016年までの需要に対応することが可能と考えております。

成長エンジン2:油圧機器

―― 油圧機器はインフラ関連ですから新興国中心に伸びるイメージでしょうか?

松本:
油圧機器は、現時点では中国のインフラ関連の落ち込みを受けて業績は今ひとつの状況にはありますが、中期的には新興国のインフラ需要が確実に見込まれる分野ですので、これまで日本から輸出していた大型建機向けの製品を現地化するための第2工場を建設するなど、これもフロントロード型の大きな設備投資を行いました。

海外の取引先開拓も積極的に進めています。
中国では上海に油圧機器の第1工場があるのですが、この売上の半分は中国ローカルメーカー向けです。

―― 中国向けでは、最近反日感情が高まっているという点が心配ですが…。

松本:
幸いなことに当社の場合はBtoB事業ですし、中国のローカルのお客様とも、強固な信頼関係を築いております。

それに、当社と同様の品質の製品を作ることは、現時点では中国でもまだできないんですね。
今後、中国ローカルで同様の製品を作れる企業が出てきて価格競争に陥るということがなければ、現在のポジションは変わらないと見ています。
もちろん、今後価格競争に陥った時に、現地メーカーにどう対抗していくかも今から考えて対策を検討していますが。

成長エンジン3:自動ドア

―― 自動ドアではスイスのギルゲン社を買収されたと伺いました。このご判断の背景は?

松本:
我々は、自動ドア世界最大のマーケットである日本で、50%のマーケットシェアを持っておりますし、市場も成熟しておりますので、今後国内だけでは大きな成長は期待できません。

となると、成長ドライバーは海外です。
そこでギルゲンのM&Aには2つのメリットがあると考えました。

―― それは何ですか?

松本:
ひとつには、世界的に自動ドア業界の集約が進む中、スイスで1位、世界でも5位の同社がグループ入りすることが大きいと考えたためです。

そしていまひとつの理由は、新興国市場での成長です。
同社を買収することが、新興国市場での成長の足がかりになると考えたのです。

自動ドアに関しても、今一番期待されている成長市場はやはり中国なのですが、中国の建設・建築市場は欧州規格を好むんですよ。
製品的にできる・できないという問題ではなく、その規格を持っているか持ってないかが採用の基準になっているところがあります。
当社がこれから(欧州規格を)取得しようとすればかなりの時間を要してしまいますが、ギルゲンは当然欧州規格を持っていますから、それが適用できるということなんですね。

――  なるほど…。ところでギルゲンのお話が出ましたので、M&Aの基準についてもここでおうかがいしておきたいのですが。

松本:
もちろん事業によって異なるところはありますが、基本的には、3つの判断軸があります。

1つ目は「当社にない技術を買う」。当社が保有する技術はコンポーネント系が多いのですが、ここにメカトロニクス系のセンサーやモーターを加えれば製品に付加価値が付きますし、お客様にとっても手間が省けます。

2つ目は、「市場を買う」。今まで当社が進出していなかった市場、あるいは力が弱かった市場でプレゼンスを強化するための買収ですね。

そして3点目が、「キャパシティを買う」。
(当社と)同じような製品を作っている企業の生産能力を買うという考え方ですね。
この2点目と3点目は時間を買うと言い換えても良いのでしょうが。ともあれ、この3つの方向性があります。

―― その中で、今回の自動ドアのギルゲン社買収はどのパターンだったのかと言うと…。

松本:
これは「市場を買う」という部分が大きいですね。一部、「キャパシティを買う」という意味合いもありましたが。

成長エンジン4:鉄道車両用機器

―― では最後に鉄道車両用機器についておうかがいさせて下さい。

松本:
鉄道関係では中国市場が注目されがちですし、実際、当社も高速鉄道で4割のシェアを持ってはいるのですが、鉄道の世界最大の市場はどこかと言えば、これは欧州なんですね。

ですから、やはり今後を考えれば欧州市場に出ていかなければならないと考えておりますし、実際、現地の展示会などにも積極的に出展したり、マーケティングのために長期出張者を派遣したりするなどして、具体的な引き合いを大手車両メーカーからいただけるようになってきました。

―― では、成長戦略の最後に新規事業についておうかがいしたいのですが。
再生エネルギー関連に力を入れておられるとか?

松本:
はい。1つは、合併前から始めている風力発電向けですね。
これは風力発電機を作るわけではなくて、その部品です。これは、まだお客様が少ないことと、お客様が北米にマーケットが特化されていることがあって、現時点では伸び悩んではおりますが、将来的にはまだまだ成長できるものだと思っています。

そしてもう1つが、今年から出荷が始まった太陽熱発電向けの太陽追尾駆動装置です。
これは精密減速機の技術を応用した製品ですね。

太陽追尾駆動装置

――これはどのようなものなのですか?

松本:
太陽熱発電では、鏡を砂漠にたくさん敷き詰めて、太陽の熱を一点に集中する虫眼鏡効果みたいなもので蒸気タービンを動かして発電します。
中には「溶融塩」という熱を蓄積するという媒体も入っていますので24時間発電が可能で、いわゆるクリーンエナジーの中で最も発電効率が高いとされています。

長期的に非常に大きな成長が期待されている発電方式で、今、世界初のプラントがネバダ州で建設中されているのですが、当社はこの鏡を動かすための追尾駆動装置を受注しました。

―― 追尾というのは、文字通り太陽を追いかけるということですか?

松本:
そうです、そうです。
鏡は沢山ありまして、遠いところでは中心部から1マイルぐらいあるんですよ。その鏡一個一個を(焦点が同じ所に当てられるように)ずーっとこう動かす装置を当社は作っているわけです。
ちょっとでも狂うと中の熱が集まりませんから、非常に精緻な制御が要求される製品です。

―― 太陽の光って1点に集まるとものすごく熱いですから、確かに相当熱エネルギーが取れそうな感じが致します。砂漠化が進む中で、そこからクリーンエネルギーを生み出せるというのは非常に嬉しいですね!

松本:
本当にそうですね。
10年後には年間で(累積じゃないですよ)100プロジェクトぐらいは計画されているということですから、マーケットとしても非常に大きいですね。当社としても今後に期待しています。

―― これは貴社が保有されている技術の応用という話がありましたが、お客様から持ちかけられた、それとも御社からご提案して開発された、どちらなのでしょうか?

松本:
太陽熱については、我々からマーケティングしていったものです。
その意味では、当社が新長期ビジョンに掲げた「ベストソリューションパートナー」、つまり常にお客様に新しい製品を提供する「提案型」企業への変革を体現した製品でもあるわけですね。

Q3: 今後の成長戦略を支える取り組みは?

―― グローバル化は今後もさらに進みそうですね。こうした戦略を支えるため、現在、グローバル人材の育成にも力を入れておられるのだとか。

松本:
グローバル人財――当社はこのように呼んでおります――はやはりまだ不足しているとの認識で、3年程前から、日本語を話せる外国人を新卒で採用し、育成することに力を入れております。来年からは新卒(大卒、院卒)の3割が外国人になるんですよ。

―― 3割!それはすごいですね。その意図されているところは?

松本:
意識改革という意味合いも強いですね。特に若い人、日本人の新卒は否応なく意識が変わると思いますよ。同期が3人いたら1人が外国人になるんですからね。自分が変わらざるを得ないですよね。

―― 確かにそうですね。

松本:
(外国人と言っても)日本語は喋るのですが、やはり違う考え方の人が隣にいる、入社1年目からそういう環境になっていることの効果は大きいと思いますね。
それに、外国人の社員はおしなべて優秀な人が多いので、それも刺激になっていると思いますよ。語学だけをとっても、母国語と日本語、そしてもちろん英語もできるのは普通ですし。

―― 組織のグローバル化という意味でお伺いしますと、ギルケンとの融合やマネジメントについてはどのようになっているのでしょうか?

松本:
これは、(2社が合併した企業である)当社はすでに経験済みですからね。おかげ様で非常にうまくいっていますよ。

ギルゲンは元々オーナー系の企業で、現在もマネジメントとして彼らオーナー系が残っています。
もちろん我々はデューディリジェンスの段階で(経営体制をどうするかについて)色々検討しましたが、彼らに任せても大丈夫だと判断をしましたし、実際、それに応えてくれていますね。

―― マネジメントに関しては、今までのオーナーさんに任せていると。

松本:
この件に関しては、そうですね。
ですから、もし今後そういう買収があったとしても、現経営陣を残しておいた方がいいということであれば、そのようにするでしょう。

―― 絶対に日本人のトップじゃなければダメだという考え方ではないのですね。

松本:
それは全くありません。
当社の現地法人のトップは、今は日本人が大半ですが、本来的には現地の人に(トップに)なってもらうべきだという考え方が、当社のマネジメントの中では支配的です。
「新入社員の3分の1を外国人にする」というのは、それを見据えた施策でもあります。

時間はかかるでしょうが、将来は自分の母国に行って、その事業のトップになってもらう、そういった将来も見据えて頑張って欲しいですね。

―― このようにうかがっていますと、今後5年10年ってナブテスコさんを見ていくと、随分会社の中身が変わっていかれるのだろうなという感じがします。

松本:
変わるでしょうね。5年、10年で見たら全然違う会社になっているのではないでしょうか。(本社が)日本にあるかどうかも含めて。

―― 日本にあるかどうかわからない?

松本:
もともと、お客様の側で作るというのが、当社の基本方針ですからね。
産業用ロボット向けの精密減速機は今、日本でしか作っていませんが、これは最大のマーケットが日本だから。それだけの理由です。

―― 明快ですね。

松本:
ただし、どの事業においても、海外で物を作るようになったとしてもコアパーツは日本で作り続けます。
コアパーツというのは、外で加工するのが難しい物。海外だと調達や加工が難しい物。それから技術漏洩をさせたくない物ですね。

――  一方でアッセンブリー(組立)のようなものはと言えば…。

松本:
お客様の側で作ることになりますね。

たとえば、当社の航空機事業では、今、民間部門における当社の最大の取引先はボーイングです。
これまでは日本で作って、アメリカで一部アッセンブリーをしていたのですが、ボーイングが生産基数を増やしている中、これに対応する為に米国の工場を補強し、移転を進めています。
今後は「787」向けの製品もほとんどすべて米国内で作ってしまうことになりますね。

―― これだけ、生産も最適地生産、マーケットも海外に広がっていて、強い事業も少なくとも8つはあるという中で、マネジメントが大変なのではないかなと思うのですが。

松本:
そうですね。事業が多岐にわたりますので、社長が全部判断していくには無理がありますから、各事業ごとに社長をおくカンパニー制というのを早くから導入しておりますし、その権限をある程度高めて自由な采配が出来る様にしています。

―― せっかくですので、ここでガバナンスに対する考え方もお伺いさせて下さい。

松本:
社外取締役・社外監査役は早くから導入しております。
一部には元・親会社出身の方もいらっしゃいますが、決して「ただ居る」だけの人達ではなく、かなり厳しく色々なご指摘して下さる方に入って頂いているつもりですし、ガバナンスは強化する方向にあります。

当社の場合もうひとつ特徴的なのは、コンプライアンスに非常に力を入れているということです。
本部だけではなく工場の現場まで全て、コンプライアンス月間には各部署でテーマを設けてコンプライアンスについてディスカッションをし、自分達で決めた目標を見えるところに貼ることで日々の行動を律していこうとしています。

Q4  個人投資家の皆様へ一言お願いします。

―― 色々おうかがいして参りましたが、個人投資家さんが、どういった点を楽しみに、ナブテスコさんの株を持っていけばいいのかと言えば、ずばり安定でしょうか、成長でしょうか。

松本:
これは、もうやはり成長ですね。成長銘柄として見ていただきたいです。

―― 個人の方はなかなか事業内容がわかりづらいところがあるかとは思いますが、電車に乗ったり、自動ドアを通ったりしたら、ナブテスコさんの技術がそこに使われているということをご認識いただいて、そのマーケットが世界中に広がっているんだとお考えいただければ良いのかもしれませんね。

松本:
はい。私たちとしましても、個人向けIR活動やウェブサイトのコンテンツなどを地道に強化・改善することで、皆様にご理解いただけるよう努めていきたいと思います。

―― 本日は、ありがとうございました!