国政選挙が近づくと注目度がグッと高まる企業、それが、この株式会社ムサシ

「紙を数える」分野(紙幣を数える、投票用紙を数える)で高い存在感を持つ同社。
あの、ツルッとした投票用紙(投票箱に入れると自動的に開く紙です)の国内シェアは100%!
選挙の開票が昔と比べて早くなったのも、同社の貢献が大きいそうです。

常に市場の先を読みながら、大手と競争しないニッチ市場で高いシェアを取る。
今の事業分野の周辺で新しいビジネスをいち早く発見する。言うのは簡単ですが実践するのは非常に難しいことを実現している同社の事業内容とその挑戦の軌跡について、コーポレートコミュニケーショングループ部の篠沢さんにおうかがいしました。

Q1: 御社のビジネスは何ですか?わかりやすく教えて下さい。

―― 個人投資家向け説明会資料を拝見したのですが、御社の事業フィールドは非常に多岐にわたっているのですね。

事業内容

個人投資家の皆様へ P8より引用)

篠沢:
まさしくご指摘の通り、「当社は◯◯屋でございます」と一言で言えないところが、IR・広報担当としても大変悩ましいところなのですが(笑)。

当社の事業に共通するのは、いずれもB to Bのニッチ(隙間)市場、明確な業界や業種が確立されていないような分野だということです。
大手企業が参入するほどの市場規模ではないが、かといって小規模企業が参入できるわけでもない。基本的にはそういった分野を活動領域としています。

―― 無用な競争を避けて、ニッチな市場で存在感を出していく戦略だと。

篠沢:
ええ。ただし当然ながら一つ一つの事業規模は限られていますから、企業としてトータルでの規模を確保するにはいくつかの事業を持たなければなりません。
ですから、当社の基本方針は

本業に徹しながら時代の流れや変化に対応し、取扱商品・サービス内容を
変えていく。同時に本業の周辺分野に新しい事業開拓の芽を見出す。

となっているわけです。

―― 創業当時の本業は何だったのですか?

篠沢:
紙の卸売です。
当時は戦後まもない時期で、紙は配給制でしたので、そういった希少価値のある商品を扱うのは商売になるだろうということで始めました。

ですが、紙の流通業というのは何百年という歴史を持つ企業さんが流通ルートを握っているんですね。
新参者である当社がこの業界で大きく成長するのは難しいだろうということがわかりまして、より付加価値の高い事業を探した結果、行き着いたのが複写機と感光材の販売です。
これが情報事業のスタートになりました。

―― 複写機というのは、つまりコピーですか?

篠沢:
はい。ただし、今のコピーとはかなりイメージが違うと思いますが。

当時のコピー機は感材を感光させて写すもの――つまり、書類を写真で撮って焼き付けるようなものでした。
ですから、写真の技術を持つ富士フィルムさんが強かったんですね。その富士フィルムさんの国内総代理店として、当社は複写機と感光材をとして取り扱うようになりました。

―― 富士フィルムさんとのお付き合いはどこから始まったのですか?

篠沢:
実は、紙の販売先だったんですよ。
35mmのフィルムって、緑の小箱に入っていますよね?当社は、あの箱を作る用紙を富士フィルムさんに納めていましたので。

―― 紙の卸販売先だったお客様との間で新事業が立ち上がった、それが“本業の周辺分野に新しい事業を開拓”したということなのですね。
ところで「総代理店」をされていたということは、ここでも紙と同様に「卸売」という事業形態だったのですね?

篠沢:
はい。紙、情報、印刷の3事業はいずれも商社(卸売)機能だけで立ち上げたものです。

ですが、仕入販売では価格決定権を持つことはできませんし、そもそも自社のオリジナリティをもっと出さなければ企業としての価値が出ないのではないか、そう考えた結果が、モノづくりである「金融汎用システム事業」と「選挙システム事業」への参入でした。

―― 金融汎用システムとは具体的にはどのようなものですか?

篠沢:
金融機関向けの貨幣処理機が多いですね。
行員さんが店舗内で扱っておられる貨幣処理業務の効率化を助ける機械を、メガバンクから地銀、信金、信組、郵便局にいたるまで様々な金融機関さんにご提供しています。

―― 金融汎用システム事業は、現在の今の事業環境としてはいかがなものでしょうか。

篠沢:
こちらの資料にもお示ししていますが、全般的に言えばやはり厳しいですね。
メガバンクだけでなく地銀も営業店舗数が減少していますし、設備投資の抑制も続いていますので。

―― そういった中、どのような戦略で臨んでおられるのでしょう?

篠沢:
ひとつには、“機能”ではなく“価値”を提案していくという方向性があります。
これまで人手に頼っていた業務を機械に置き換えますと、時間短縮や人件費削減だけではなく、正確性の担保やセキュリティの強化なども実現できます。そういった観点から当社は、貨幣処理機にとどまらず、文書や鍵、IDカード、記帳前の通帳といったさまざまな重要物の管理機も開発し、ご提案しています。

いまひとつは、金融機関以外の業種に展開していくという方向性ですね。
流通業、宅配業、交通機関、競技場、アミューズメント施設といったところに、売上金の精算や重要物の管理に対するご提案も進めておりまして、導入実績も伸びています。

Q2: 御社の強み、他社との違いはどこにあるのでしょうか?

―― それではモノづくりのもうひとつである「選挙システム機材」についてお伺いしたいと思います。
資料に「投票用紙読み取り分類機」と書いてありまして、私、こんなものがあるんだ!と驚いたのですが。

篠沢:
実はこれ、きっかけは金融汎用システム事業の紙幣整理機にあるんですよ。

当社がモノ作りを始めようとした時、一番初めに作ったのがお札を勘定する機械でした。
それをまず銀行に持ち込んだのですが、当時の金融機関さんは手でタテカン(縦勘定)、ヨコカン(横勘定)オンリーで(編集室注:銀行員がお札を数える時の方法。(イメージ動画)、「お客様からお預かりした大事なキャッシュを機械で数えるなんてとんでもない!」そうおっしゃられまして、お金を勘定する機械というのはなかなか受け入れていただけなかったんですね。

要は時期尚早だったということだったのですが、それでは金融機関以外でキャッシュが集まる所にご提案してみよう、とお話を持ち込んだのが公営競技場、競馬場でした。
ここは当時キャッシュだけで運営されていましたので、これはいいという事でどんどん導入が進みました。

そうしてある程度導入が進んだある日、公営競技場で使われている紙幣計数機を自治体の選挙管理委員会の担当者がご覧になりまして、――公営競技場というのは自治体が運営管理しているのですが――「このお札を勘定する機械で投票用紙を数えられないか?」とおっしゃいました。

当時の開票作業はまったくの手作業、人海戦術でした。
その頃、手作業による開票速報ミスも発生しまして、当確のはずが逆転になってしまったという事件もありまして、スピードアップというよりは正確性を増すためにどうしたら良いのかと選挙の担当者様も頭を悩ませておられたんですね。
そんな時に、紙幣を正確に数えている当社の機械をご覧になって、これで投票用紙を数えられないのかと。
当社としてはヒントをいただいた形になったわけです。

―― 実際、紙幣処理機で投票用紙を数えることはできたのですか?

篠沢:
いえ、もちろんそのままでは数えられませんので、改造しまして、投票用紙の計数機、枚数カウンタを作ってご提案しました。それが「選挙システム事業」の始まりです。

その後は、手書き文字を漢字、カタカナ、ひらがなもすべて高速に読み取って、候補者別に分類する機械へと進化させました。

―― 資料を拝見しますと、この事業部門では「投票用紙読取分類機」だけではなく、投票用紙自動交付機や投票用紙もお持ちなのですね。

選挙システム機材の「主要商品」

(参考:事業紹介ムービー「選挙システム」

篠沢:
投票用紙の枚数カウンタを収めたご縁で投票業務や開票業務を拝見させていただきますと、効率化できる所があちこち目につきましたので、それをご提案して、製品化していった結果(ラインアップが増えた)ということですね。

―― この「自然に開く投票用紙」って面白いですね!

篠沢:
日本人の特性なのか、たいていの人は候補者の名前を書いた後、内容が見えないように折って投票箱に投票するものですから、開票の時、投票用紙を台の上にどさーっとあけた後、まず折りたたんである用紙を広げなければならない。

この「折ってある用紙を一つひとつ開く」という作業だけで、以前は開票時間の3分の1くらいかかっていたんですよ。それを何とか解消したいというお話がありまして。

機械メーカーという観点からアプローチしたら難しい問題だったと思いますが、我々は紙の卸販売をやっていますので、製紙メーカーとのパイプがあります。
ですから、用紙の素材から検討してみようということで、特殊な合成紙――フィルムの一種なのですが、折っても自然に戻るという特性を持つ紙を見つけることができました。

それを鉛筆でも書けるように改良し、オリジナルの投票用紙として開発しまして、今では全国で使われるようになっているんですよ。

―― あー、あの紙ですか!ツルッとして手触りと書き心地がいい…。

篠沢:
そうです、そうです。ちょっとしっとりした手触りの。
鉛筆がなめらかに滑るでしょう?
で、こうやって折って投票箱の中に入れても・・勝手に開くんですよ。

―― うわ!本当ですね。投票箱に入れた後、見たことがないから知りませんでした。
確かに、折っても自然に開くんですね…。

篠沢:
はい。ですから開票所で投票箱から出したら、すぐに候補者別に分類する作業に入ることができます。
これで、開票時間が3分の1減ったと、そういう紙です。

シェアとしては、国政選挙では100%、全国でお使いいただいていますね。

―― 計数だけでなく、投票用紙も。まさにトータルソリューションなのですね・・・。

篠沢:
本当にトータルなんですよ。
こういった投票用紙や機械を納めるだけではなく、機器用品の事前点検や開票所での立会、「◯月◯日衆議院選挙」とポケットティッシュに書いたものを配って投票率を高める投票啓発のキャンペーングッズなども承っています。

ですから、選挙事務をワンストップで我々にご用命いただければ、機械・人・サービス、なんでも揃います。

―― それだけトータルで手がけておられる企業さんは、おそらく他にはない。
ユニークネスという意味ではこの部分が一番他社さんと違う部分である、そういった理解になりますでしょうか?

篠沢:
はい。商品(あるいはサービス)別で見れば競合はもちろんあります。
ですが、これだけトータルでこの分野を手がけている企業さんは他にはありません。
その意味で(この分野に)実質的な競合はない「オンリーワン企業」だとご説明しております。

―― 同じような製品があった時に、御社が選ばれる理由はどこにあるのでしょう?

篠沢:
使い勝手と正確さ、でしょうか。
現場を知っている深さ、使う側のプロセスを本当によく知っているということ、当社の場合はそれが開発の基礎となっています。その差を埋めることはなかなか難しいんですよ。

Q3: 事業環境とその対応は? また、今後の成長戦略は?

―― それぞれの事業の内容、そして強みについては、おかげさまでだいぶわかってまいりました。こういったラインアップをお持ちの中で、今後の成長戦略という意味ではどのあたりがポイントになってくるのでしょうか?

篠沢:
先ほどお話した、「金融汎用システム/選挙システム」、そして、「情報・産業システム」ですね。

情報分野では、もともとはマイクロフィルムの関連機材そのもの、つまりハードを販売してきました。その後、過去に撮ったマイクロフィルム、もしくは紙の文書を電子データ化するといった業務(メディアコンバートサービス)の受託をしているのですが、これが今、マイクロフィルムよりもデジタル化のご依頼が増えています。

―― これは既存の事業の延長で受けられるものなのですか?

篠沢:
はい。紙をマイクロフィルムにするのも、電子データ化するのも、基本的には同じです。
マイクロフィルム用のカメラが、CCDセンサーのスキャナになるだけですから。

ですから今は、マイクロフィルム、紙、電子データ、この3つの媒体の相互変換業務を扱っております。
以前はパートナー企業に変換業務を外注していたのですが、今はそれら4社を子会社化しまして、体制を強化しています。

―― なぜ子会社化したのですか?

篠沢:
お客様の7~8割が官公庁や自治体ですので、機密性の高い情報のデジタル化をご依頼いただくためには、自社グループ内でお受けできる体制を作っておくことが必要なのです。

―― 確かに、官公庁は紙が多そうですね…。

篠沢:
はい。もともとそうですし、2011年4月から公文書管理法が施行されまして、公文書を管理・保存する手段としてのデジタル化のニーズが急速に高まっています。

公文書管理法は、そもそもで言えば情報公開法とセット、車の両輪のような関係であるはずなのですが、日本では先に情報公開法ができて、2011年、ようやく公文書管理法が施行された、そんな順序ではありましたが、行政文書の作成から管理、廃棄に至るまで非常に細かいルール作りがされました。

保存しなければならない文書が非常に多くなりましたし、震災によって公文書が消失してしまったという問題もあり、セキュリティ対策としても、重要文書の電子化、あるいはマイクロフィルム化の需要が伸びていますし、過去のマイクロフィルムを電子データ化するというニーズも増えています。

―― そうしますと、情報・産業システムの成長戦略は、メディアコンバートを核にしたドキュメントソリューションであり、これが事業全体の中でも一つの核になってくると。

篠沢:
はい。そこは当社の読み通りですね。情報管理に関しては、アメリカが日本の数年先を進んでいます。
当社は定期的に現地を視察した結果、今後は電子データ化の需要が増えてくるだろうということで、先ほど申し上げたようなM&Aを進めてきたわけです。

Q4: 個人投資家の皆様へのメッセージをお願いいたします。

―― それでは最後に、個人投資家の皆様へのメッセージをいただけますか?

篠沢:
「本業に徹しながら、時代の流れや顧客ニーズの変化に対応し本業の内容(取扱商品・サービス内容)を変えていく。同時に本業の周辺分野で新しい事業開拓の糸口を見出す」
――その方針のもと、当社は商社でありながらサービスも手がける、そして金融汎用システム機材や選挙システム機材を自社で開発・製造するメーカー機能も併せ持つユニークな企業へと成長してまいりました。

今、当社の事業の中には環境が厳しいものもございますが、同時に、成長・拡大の好機を迎えているものもあります。
当社はこれからも、中期戦略である「業績が特需によって左右されない体制の確立」を目指しつつ、新たな成長機会の獲得に努めてまいりますので、どうぞご期待下さい。

―― 本日はありがとうございました!