日本の製薬業界には、画期的新薬を生み出す力がある。これまでに「IR担当者インタビュー」でお話をおうかがいした製薬会社の方々は、口をそろえてこのようにおっしゃいます。しかし、実際には「日本発」の「グローバルに展開される新薬」は非常に少ない。

その理由のひとつが、グローバル開発ノウハウの少なさであると、メディシノバの岡島さんは指摘します。
たとえば、海外の大手CRO(臨床試験受託機関)や医療機関とのコミュニケーション。そして、米国における開発なら不可欠なFDA(米国食品医薬品局)との交渉。こういったことが不得手であるため、日本国内にはまだまだ、有望な「新薬の種」が眠っているのだとか。

日本の中堅の製薬会社から薬のタネを買って新薬の開発を行い、その薬を海外のマーケットで販売するそうです。それにより、日本の医薬品候補と欧米市場の橋渡しを行うメディシノバ・インク。そのビジョンと特長、そして今後の戦略について、副社長の岡島さんにお話をうかがいました。

Q1: 御社のビジネスは何ですか?わかりやすく教えて下さい。

―― 御社は日本の会社ではなく、アメリカの会社なのですね。まずは創業の経緯についてお話いただけますか?

岡島:
はい。当社の創業者である社長の岩城は27歳の時にアメリカに渡りまして、以降37年間、臓器移植の医師として活動しながら(現在でも南カリフォルニア大学の移植の免疫センター長を兼任しています)、複数のバイオベンチャーの経営に携わってきました。
そうしたキャリアの中で、日本の製薬会社、特に中堅クラスの製薬会社が欧米への海外展開で苦戦している状況を多々見て来た岩城は、何とか日本の製薬企業にも飛躍してもらいたい、自身の経験やノウハウ、ネットワークなどを活用すればそのお手伝いができるのではないか、そういった想いを持って当社を立ち上げたのです。

―― そもそもなぜ日本の製薬会社は欧米での展開を目指すのでしょうか。

岡島:
一言で言えば、研究開発投資を回収するためです。

ご存知のように、新薬の開発には何百億円規模の莫大なお金がかかります。特許が切れればジェネリックの参入もあります。だから、できるだけ早期に研究開発投資を回収しなくてはならない。

では、どの市場であればそれが実現可能かという観点で見た時、世界の医療用医薬品市場、実はその売上高の半分近くはアメリカ一国で上がっています。ヨーロッパも合計すれば(市場全体の)3割を超えます。
これに対し、日本は、単独の国で行くとアメリカに次ぐ世界第2位ではあるのですが、シェアは8%程度に過ぎません。ですから、同じ薬を開発するなら、やはり、よりマーケットの大きな欧米、特に米国でまず売って行くべきだという判断になります。

―― それにしても1位のアメリカと2位の日本では市場規模に大きな開きがあるのですね。
もちろん人口の違いはあると思いますが、それだけが理由ではないのでは?

岡島:
これは、両国の薬価制度の違いに起因するところも大きいですね。
日本の薬価は、たとえばある薬が一回の投与あたり100円だとした時、その分野で新薬を開発した時の薬価は「新しい機能がありますね。では110円をつけて良いですよ」といった形で決められます。

これに対し、アメリカの場合はどうなのかと申しますと、今ある薬が1ドルだったとしても、同じ分野で今回発売される新薬が画期的なものである場合――たとえば入院率を減らせて、それによって一回入院減らせれば、例えば医療費を50万円削減することができるということだったら薬価は5万円でもいいじゃないのと、たとえばそういう話にもなり得る。経済合理性があって受給のバランスが取れれば、価格設定自体は製薬会社の自由なんです。だからこそ、確かに医療費はものすごく高くて薬の値段も半端なく高いのですが、一方で新しい物は常にまずアメリカから生まれる訳ですよ。

―― なるほど。それが日本で「世界初の新薬」が生まれにくい理由であり、大手製薬会社さんが米国市場を重視する理由なのですね。

岡島:
その通りです。日本でも上位の製薬会社さん――たとえば武田、アステラス、第一三共、大塚、エーザイといった企業は、すでに売上の半分程度は海外になっています。
ところが中堅クラスになると(海外売上高割合は)10%程度へと急に落ちてしまう。

―― なぜですか?

岡島:
中堅クラスの製薬会社さんも、有望な新薬の「種」は持っておられます。ですが、欧米での開発力が弱い。
たとえば、臨床試験を実施する上で不可欠な、アメリカの大手CRO(臨床試験受託機関)や医療機関とのコミュニケーション、FDA(米国食品医薬品局)との交渉などが不得手であることが多いのです。

その点、当社であればこうした部分をうまく進めることができます。
社長の岩城は人生の半分以上をアメリカで医者をやりながらビジネスをしてきています。彼は、日本人として日本の製薬企業と接しながら、日本の製薬企業さんのものを、欧米ではアメリカ人としての顔で、その道のプロフェッショナルをそろえて、彼らをうまくコントロールしながら開発を進めることができます。

こうした強みを生かし、キッセイさん、キョーリンさん、田辺三菱さん、Meijiさんといった日本の中堅製薬会社さんがお持ちの優れた医薬品候補化合物を、ドクターの目線で選ぶ。そして欧米で開発販売する権利を取得し、欧米で開発販売していく。それがメディシノバのビジネスモデルです。

ポートフォリオ

(クリックして画像を拡大 :2012年12月期決算説明会 P12より引用)

Q2: 御社の強み、他社との違いはどこにあるのでしょうか?

―― 「ドクターの目線で」について、もう少し詳しく教えていただけますか?

岡島:
製薬会社さんの場合は、開発の上流、つまり、化合物の新規性や作用機序といったサイエンスの部分から薬を見ておられるのですが、医師は下流、つまり「医療の現場」で何が求められているのかという目線で見ます。

たとえば、当社のコア開発品の一つである「ベドラドリン硫酸塩(MN-221)」。元々これは当社、切迫早産の治療薬としてキッセイさんから権利を買ってものです。アメリカには承認されている切迫早産の薬が無いので…ということで、権利を買ってきてアメリカで開発を進めていました。
ですが、フェーズ1が終わったところで方針転換をしまして、喘息急性発作の治療薬として開発を進めることにしました。この方針転換は、当社のチーフ・メディカル・オフィサー(CMO)である松田ドクターの発案によるものです。

アメリカには急性喘息発作で救急病院に搬送される患者さんは、年間約190万人もおられます。その治療に使われる薬は吸入薬なのですが、喘息の発作の患者さんというのは基本的に気道がすごく狭くなっています。つまり「吸えない」状態なのです。
特に、小児喘息の発作を起こした小さなお子さんなんかは苦しくて泣き喚いているので、吸入薬を吸ってくれません。それなのに、吸入薬を使うしかない。

急性喘息発作を起こした気道

(クリックして画像を拡大 :2012年12月期決算説明会 P38より引用)

実際、吸入治療がうまくいかない人は、統計によれば190万人の半数弱にのぼる93万人、治療がうまくいかず入院する人が52万人もおられます。さらに怖いのは、その薬には心臓の動悸が激しくなるという副作用があることです。
それが医療現場の課題になっているということを、小児科のドクターで、アメリカの救急病院でも働いていた経験を持つ松田ドクターはよく知っていました。

―― MN-221であれば、どのようにしてこれらの課題を解決できるのですか?

岡島:
まず、MN-221は点滴薬です。ですから、呼吸ができなくて苦しんでいる患者さんにも確実に投与することができます。点滴でMN-221を投与することにより、気道の周りで収縮している筋肉(平滑筋)が弛緩し、気道が広がります。これによって、患者さんの呼吸が楽になるのです。

それに、安全性も高い。MN-221は日本では切迫早産の治療薬として使われている薬、つまり妊婦さんにも投与できるくらいに安全性が高いので、副作用の問題も解決できます。

―― 確かに点滴なら確実に効き目を得ることができそうです。

岡島:
はい。点滴薬は、現場のドクターにしてみると非常に良いのです。
たとえば非常に小さなお子さんで、点滴なら確実に入る。そういった感覚はやはりドクターならではの目線です。

―― 入院患者さんが減ることは、医療費負担の削減にもつながりますね。

岡島:
その通りです。喘息で救急病院に入院した場合、医療費は1回あたりおよそ6,000ドル~9,000ドルにものぼりますが、MN-221で呼吸が楽になって帰宅できれば、この入院費が削減できるわけですね。

病院にとってもメリットは大きいのです。救急病院は、患者さんを拒否することはできません。救急車で運ばれてきた重体の患者さんを、この人はお金持っていないからとか保険に入ってないからという理由で助けない訳にはいかない訳ですよね。
でも、助けてみたら実は治療費・入院費を払えない人だった、その場合は病院の持ち出しになってしまいます。そうしたリスクもありますから、救急病院としても、入院ではなく初期の処置だけで帰宅していただけたほうがありがたいのです。

―― なるほど、わかりました。ではもうひとつのコア開発品である「イブジラスト(MN-166)」については、どのようなドクターの目線が活かされているのでしょうか?

岡島:
こちらも実は日本では既に販売されている薬です。喘息の予防薬と、脳梗塞後のめまい治療薬として承認を取得してから、23年。これまでに日本だけで320万人以上に処方されており、ジェネリックも出ているロングセラーですが、欧米では全く売られておらず、欧米にとっては完全な新薬となります。

このMN-166が、欧米に多い多発性硬化症という難病や、世界中で問題となっている薬物依存の治療に有効だということで、メディシノバがその用途特許を杏林製薬さんから買い取り、開発を進めることになったのです。

イブジラスト(MN-166)の概要

2012年12月期決算説明会 P14より引用)

―― 多発性硬化症とはどのような病気なのですか?

岡島:
多発性硬化症は、目の調子が悪くなることに始まり、次第に手足が痺れたり、排尿の管理ができなくなったり、歩けなくなったりと悪化し、最後は車いすの生活になってしまうという難病です。
日本には1万人~1万2000人しか患者さんがおられないのですが、社長の岩城はドクターとして、その患者さんが米国に多い(推定患者数:50万人~80万人)ということを知っていました。

我々は多発性硬化症の中でも特に「進行性多発性硬化症」の適応で、新たな用途特許も昨年(2012年)に取得し――これは2030年まで保護される特許です――開発を進めています。これが、ドクターならではの目線を生かして開発を進めているもうひとつの例です。

Q3: 事業環境とその対応は?また、それに対応する成長戦略は?

岡島:
MN-166の適応としてより注目されているのは、薬物依存症の治療です。
これも日本ではあまり知られていないのですが、海外では薬物汚染はかなり深刻な状況にあります。

薬物依存症:グローバルなニーズ

(クリックして画像を拡大 :2012年12月期決算説明会 P18より引用)

MN-166は、覚せい剤だけでなく、麻薬中毒、アルコール依存症、煙草等、とにかく何かに依存するというものに対しては非常に良く効く薬です。
当社は、「メタンフェタミン(覚せい剤)依存症」と、「オピオイド(麻薬系鎮痛剤)依存における離脱症状」への適応で開発を進めています。

―― メタンフェタミン依存症の治療はニーズが高そうですね。

岡島:
はい。薬物中毒が社会的な問題となっているにも関わらず承認薬はない。ですから、そういった意味で、アメリカは今、国をあげてこれを解決する薬を求めています。

メタンフェタミン依存症の承認薬不在

2012年12月期決算説明会 P19より引用)

ですからこの開発も、アメリカの国立衛生所の下部組織であるNIDA(国立薬物乱用研究所)から開発費を全額出しもらって、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)と共同で進めております。2013年の上期、6月末までに我々この結果を発表してフェーズ2のステージに入っていきます。実はフェーズ2の開発費用もアメリカが出しますよということをコミットしていますし、FDAからもファーストトラック(優先審査)の承認を受けました。

―― 「オピオイド(麻薬系鎮痛剤)依存」についてはどうでしょう?

岡島:
これも同じく国立衛生研究所から開発資金が出ていましてニューヨークのコロンビア大学と一緒に開発しております。昨年(2012年)末にフェーズ2Aをスタートしました。

MN-166については、その他にも薬物誘発性頭痛――薬を飲みすぎたときに起こる頭痛を治すための薬として、オーストラリア政府からの助成を受けて、同国のアデレード大学と一緒に開発を進めています。

多発性硬化症については、今はまだ発表できませんが、非常に大きなグラント(研究助成金)をアメリカ、ヨーロッパで申請しておりますので、そのうち良いニュースが聞けるのではないかと期待しています。

MN-166 進行中の臨床試験について

(クリックして画像を拡大 :2012年12月期決算説明会 P34より引用)

―― MN-166は非常に楽しみなフェーズにあるということですね。では、MN-221の現状と今後の戦略についてもお話いただけますか?

岡島:
昨年(2012年)10月に FDAとエンド・オブ・フェーズ2ミーティングを実施しまして、フェーズ3の主要評価項目にどのようなものを入れるべきかの指導をいただきました。
開発資金の観点から、今後の臨床試験はパートナーと実施していくことになりますが。米国だけでなく中国でも開発を進めて行く予定です。すでに合弁会社を作っておりまして、今のPM2.5も含め、大気汚染が深刻化している中国ではこういった患者さんがますます増えていく可能性が高いと考えています。

MN-221 商品化の世界戦略

(クリックして画像を拡大 :2012年12月期決算説明会 P43より引用)

Q4: 個人投資家の皆様へのメッセージをお願いいたします。

―― それでは個人投資家へのメッセージをお願いいたします。

岡島:
我々は、最終的にはグローバルな製薬会社になろう、つまり単にパイプラインのバリューアップをして売却する会社ではなく、製薬会社になることを目指しています。

もちろん、短期間で答えが出るわけではありませんし、薬の開発にはリスクがある。我々自身はうまくいくと思ってやっていますが、確率的に見てどんな薬でも開発の途中何があるかわからない、必ず成功するとは言えません。
ですから、個人投資家の方々には、ポートフォリオの中に(当社の株を)大きく入れてはダメですよ、と申し上げています。ただ、一部入れておいて、5年間ぐらい放っておいて頂ければ、すごく大きく変化している可能性もある。それがバイオベンチャーへの投資姿勢だと思います。

今、我々の売上は少ない。利益はありませんし、配当もありません、ですが、うまく行ったときには、やっぱりキャピタルゲインという形でお返しできるようにビジネスを進めております。IRの説明機会もできるだけ多く持つようにしておりますので、本日のお話、そしてこれからのIRをご覧いただき、長い目で応援していただけましたら嬉しいです。

―― 今は動きが出るタイミングだということで、非常に楽しみな気がいたします。
本日はありがとうございました!

 

編集室より:
メディシノバ社の創業の経緯やトップメッセージなどがまとまっている、個人投資家向け特集ページも御覧ください。

メディシノバ徹底解剖