2012年10月に改装が完了した、東京駅。同じく2012年にオープンし、一大観光名所となっている東京スカイツリー。これらの建物を始め、多くの高層ビルなどを地震の揺れから守っているのが、KYB株式会社(編集室注:正式名称はカヤバ工業。通称およびブランド名はKYBとなっています)の免制震ダンパです。

それだけではありません。新幹線の車内でコーヒーがこぼれないのも、自動車の操縦を安定させているのも、KYBが提供する製品のおかげなのだとか。まさに「縁の下の力持ち」として私達の生活を支える同社の現状と今後について、IR室長の荒川さんにお話をうかがいました。

Q1: 御社のビジネスは何ですか?わかりやすく教えて下さい

荒川:
当社は、油圧機器の国内最大手企業です。油の圧力でエネルギーを伝え、その力をうまくコントロールすることで生み出される「振動制御技術」「パワー制御技術」を核に、様々な製品を開発・製造しています。

開示セグメントで申しますと、当社は、自動車・二輪車向けの部品を中心とする「AC(オートモーティブコンポーネンツ)事業」と、建設機械向けの産業用油圧機器・航空機用油圧機器などを中心とする「HC(ハイドロリックコンポーネンツ事業)」が2大事業となっています。

KYBの油圧技術 セグメント別売上高(2012年3月期)単位:億円

(クリックして画像を拡大)
「特装車両事業およびその他製品」に含まれる製品の例:特装車両(例:コンクリートミキサ車)、免制震装置 など

―― 2つの技術と事業セグメントの関係について教えていただけますか?

荒川:
AC事業セグメントの売上のうち7割強を占めているのが、「振動制御技術」を使った、油圧緩衝器――具体的にはショックアブソーバが中心となっています。現在世界では、約5台に1台の車にKYBの自動車用ショックアブソーバが装着されているんですよ。
そして残る3割は、パワーステアリング製品を主とする四輪車用の油圧機器などが占めています。

HC事業セグメントのほうは、売上の9割近くを産業用油圧機器が占めています。これは、当社の「パワー制御技術」を使った建設機械、特にパワーショベルの各種部品が主ですね。

AC事業の売上構成比             HC事業の売上構成比

(2012年3月期 単位:億円)                               (2012年3月期 単位:億円)

編集室注:
KYBの製品がどのような場面で使われているかについては、同社のホームページにわかりやすく説明されています。併せてご参照ください。

KYBって何? 自動車で活躍(リンク) / 土木現場で活躍(リンク)

売上に占める割合が高い順に申し上げるとこのようになりますが、構成比は小さくとも重要な製品もあるのですよ。

―― それは何ですか?

荒川:
たとえば、高速鉄道用セミアクティブダンパ(セミアクティブサスペンションシステム)があります。これは、HC事業に含まれている、新幹線の横揺れを制御する装置です。
新幹線の場合、特にトンネルを通過する時や、対向路線とのすれちがいの時に、気流の関係で大きな横揺れが発生します。これを制御することで、飲み物がこぼれない、通路を普通に歩くことができる、新聞・雑誌が読める、そういった「当たり前」の快適さを実現しているのです。

セミアクティブサスペンションシステム(リンク)

それから「特装車両事業およびその他製品」セグメントの売上のうち、半分以上を占めている建物の免制震装置。これは、2012年10月に竣工した東 京駅や東京スカイツリー、その他にも六本木ヒルズ森タワーや新宿センタービルといった都内の主要な高層ビルの免震・制震装置には、当社グループのオイルダ ンパが使われています。

これらも、ショックアブソーバと同じく「振動制御技術」を使っている製品です。

[カヤバシステムマシナリー株式会社のポスターより]

Q2: 御社の強み、他社との違いはどこにあるのでしょうか?

―― 業績への影響が大きい部分で申しますと、自動車用のショックアブソーバ(AC事業)、そして建設機械向け部品(HC事業)になるかと存じます。この両製品群の強みについてお話いただけますか?

荒川:
はい。まずAC事業について申し上げますと、自動車向けのショックアブソーバは、製品自体はかなり成熟しています。それこそ当社が、第二次大戦中に生産していたゼロ戦の脚(オレオ)のメカニズムが自動車のサスペンションに応用できることに着目し、戦後のモータリゼーションの中でショックアブソーバのトップメーカーへと成長してきた頃から、基本的な構造自体はそう大きく変わっているわけではありません。

ですが、その歴史の中で培ってきたお客様(カーメーカー)との取引関係は、非常に強固なものとなっています。加えて当社の開発力――最近では、高級 車向けの高付加価値製品、たとえば路面の状況を察知して振動制御の力をフレキシブルに変えていくようなメカニズムも開発しています――に対しては、カー メーカーの技術部門の方々から非常にご信頼をいただいており、その結果、大きな受注を獲得することができます。この点は大きな強みだと考えています。

そして、もうひとつ。御存知の通り、お客様(カーメーカー)は世界各国に展開されていますので、グローバルな開発・供給体制がなければ事業は成り立 ちません。その点、当社は20年以上前から海外展開を進めており、東南アジアを皮切りにアメリカ、ヨーロッパ、中国、最近ではブラジルへと展開済みで、今 後もさらに進出国を広げていく計画です。したがって、カーメーカーさんがどこで(車を)作っても、だいたい対応ができる。その結果、かなり高いシェアを維 持することができる。これも強みですね。

海外拠点

主要納入先

(クリックして画像を拡大)

―― なるほど、わかりました。それでは建設機械(建機)向けはいかがでしょう。

荒川:
建機向けの強みは、なんと言っても、シリンダだけでなくモータ、バルブ、ポンプ、いわゆる油圧のキーコンポーネントを全て自社で作れるところですね。

―― 「全て作れる」のは珍しいことなのですか?

荒川:
全て作ることができるのは、国内ではコマツさんと当社だけです。(編集室注:コマツは内製)
部品の一部では競合メーカーはありますが、我々は油圧機器のコンポーネントの総合メーカーであるのが強みですね。

製品のラインアップも非常に幅広いです。ミニショベル――それこそ、個人の住宅の建て壊しや道路工事に使われている6t未満の小さなショベルカーから、ショベルの自重だけで800トンもあるような大きなショベルカーにも納めています。

Q3: 事業環境とその対応は? また、それに対応する戦略は?

―― 建機と言えば中国の需要が高いというイメージがあるのですが、最近の事業環境はどのようになっているのでしょうか。

荒川:
残念ながらかんばしくはないですね。一昨年の夏以降、我々の売上ベースでいくと、11年の9月ぐらいから減少となり、その後、低迷が続いています。

中国の建機需要は、リーマンショックで一旦激減した後、4兆元の景気刺激策の効果で急速に回復し、中国政府が不動産バブルを警戒して金融引締めにな るまでの2年弱はすごい勢いで伸びて行きました。お客様(建機メーカー)からは、当時応えきれないほどの注文を一気に頂くことになりましたので、2011 年に大幅な設備投資を行いました。

それがほぼ完成し、キャパシティ(生産能力)を増やして、さあ、これで受注に対応できると思ったところに、金融引締めが来てしまいました。

―― そうした事業環境下で、どのような戦略をとって行かれるのでしょうか?

荒川:
ポイントは2つあります。
1点目は、先進技術を取り入れた製品の開発です。

中国では今、地場メーカーも非常に力を付けてきておりまして、価格競争が非常に厳しくなってきている面もあります。もちろん、既存製品について生産 性の向上や調達ルートの多様化などは進めておりますが、それだけでは新興国からどんどん台頭するライバル会社に勝つことはできません。やはり、当社ならで はの開発力を活かすことが重要です。

最近開発したものとしては、電動油圧省エネシステム「EHESS」があります。

電動油圧省エネシステム「EHESS」

(クリックして画像を拡大:環境・社会報告書2012年度版 P8より引用)

これは、利用されなかったショベルカーのエネルギーをバッテリー部分に貯めることで、エンジンからの負担を抑えて次の稼働を可能にするシステムです。

―― エネルギーのリサイクルができるのですね。

荒川:
はい。これは、燃費低減に非常に貢献するシステムです。
しかも、後付けができる。既存のショベルカーに対して、後からこのシステムを上乗せすることができるのです。
こういったシステムを開発する力があるのは、当社の強みです。

―― なるほど…。それでは、2点目は何でしょうか。

荒川:
新たな生産拠点の展開です。
これは少し時間を要する話ではありますが…。中国以外でも、アジアからインドにかけての市場は今後まだ十分成長が見込めると思われますので、次の拠点をASEAN内で事業化への検討調査を進めています。

中国に関しては、固定費を圧縮しつつ生産体制を維持して、今後の需要回復に備えつつ、こういった次への備えをしていくことになります。

―― わかりました。それでは、自動車向けの事業環境はいかがでしょう?

荒川:
自動車に関しては、国や地域によって好調なところとそうでないところがあります。
アメリカは結構好調なのですが、ヨーロッパはあまり調子が良くないですね。もともとはギリシャ問題から端を発しているのですが、他の地域に比べると我々の対象となる車種に関しては需要の戻りが悪いようです。

―― 日本や中国など、アジアの状況はいかがでしょう?

荒川:
日本に関しては、今、小型車、軽自動車が圧倒的に強い市場となっています。
ですが、残念ながら我々は小型・軽にはあまり強くありません。ハイブリッド車の一部には納入させていただいていますが…。

中国に関しては、足元(第3四半期:2012年9月~12月)では尖閣問題に端を発する不買運動の影響が出ているのですが、これは比較的短期で収束するものと見ています。
実際、第4四半期(2013年1月~3月)に入ってからは少しずつ回復傾向となっているようですので、これが景気の低迷のように1年も続くとは現時点では考えておりません。タイは景気も良いですから、非常に好調ですね。

―― こうした事業環境の中、どのような点に力を入れた戦略をとっているのですか?

荒川:
四輪車用ショックアブソーバのうち、約6割は新車向けのOEM、つまり、お客様(カーメーカー)の工場に直接納入する形となっています。この部分につきましては、先ほどお話しましたグローバル展開の強化が主な戦略となります。

ショックアブソーバ開発体制の強化

(クリックして画像を拡大:2013年3月期第2四半期決算説明会資料 P17より引用)

―― 残る4割は何でしょうか?

荒川:
リプレイスメント、つまり交換用です。市販用が全体の3割、純正補用が1割となっています。純正補用というのは、お客様(カーメーカー)のサービス工場やディーラーで購入できるものです。

―― つまり、車検の時でしょうか?

荒川:
主にそうですね。ですので、車検制度のある日本での販売が中心になっています。
市販用はその逆で、大半が海外での需要です。

―― 海外では自分でショックアブソーバを変える人が多いのですか?

荒川:
そうなんです。たとえばアメリカでは一家に何台も車がありますし、土日になると車をいじっている人がたくさんいます。カーショップもたくさんありまして、 そういった方々は自分でショックアブソーバも結構変えるんですね。「足回りをもっとカタくしたい」とか、そういった好みに応じて。

気象条件にも関係があります。寒い地域では、路面の凍結防止に撒かれる塩の影響で、ショックアブソーバなどの車のシャシー部品、つまり、路面に近い部品がどうしても早く錆びてきて、寿命が短くなるんですね。そういうところでの交換需要が出てきます。

アジアの場合はこれらとはまた違う理由で交換されます。アジア諸国では、所得水準と新車の価格の間に開きが大きい地域も多いのです。一般市民はなかなか車を買えないので、「サード・ハンド」で車を買うのもかなり普通でして。

―― セコハンではなく、「サード」なのですね…!

荒川:
はい、サードですね。ともあれ、「古い車を買って長く乗る」という方々が多いのです。
むしろ、日本のように車検が来たから車をぽーんと買い換えてしまうような購買行動というのは、海外では珍しいのですが…。ともあれ、だから10万キロ乗られている車を買ったりもしますから、部品は当然痛んでいて、交換ということになります。

話が長くなりましたが、こういった「市販用」のショックアブソーバはマージン(利益率)も高いですし、実際に需要も多いので、ここをもっと伸ばしていこうという戦略を取っています。

市販ショックアブソーバの拡販

(クリックして画像を拡大:2013年3月期第2四半期決算説明会資料 P19より引用)

Q4: 個人向けIRの方針および個人投資家へのメッセージをお話し下さい。

―― なるほど。現在の事業環境には厳しい部分もあるが、環境に依存し過ぎず、御社自身でできる部分、製品開発や市場開拓、自社ブランドで伸ばせる部分の展開などで堅実に稼ぐことに今は注力していく。
もちろん、その後需要が回復してくればそこはプラス要因となる。そういった状況であるということですね。

それでは、もう少し長期で御社を見た場合に、どのような企業を目指しておられるのか、そのあたりの考え方を教えていただいてもよろしいでしょうか。

荒川:
当社は、2020年に目指す姿として「世界のお客様に納入し信頼されるサプライヤー」を掲げています。

当社の主要なお客様である、カーメーカー、あるいは建機メーカー、そのいずれの動きを見ても、今後、産業の空洞化はもっと進んで行くことになるで しょう。その時に勝ち残っていくためには、国内でコア技術を強化しつつも、販路、あるいは生産現場としては海外への展開を一層強化していかなくてはなりま せん。

そのためにも、次なる成長へ向けてどのような手を打っていくか、現中期経営計画の最終年度である2013年度(2014年3月期)は、その方向性を定めることで、次なる3ヵ年中期経営計画につなげていく1年になると思います。

KYBグループ 2020年に目指す姿に向けて

(クリックして画像を拡大)

―― では最後に、個人投資家の皆様へのメッセージをお願いします。

荒川:
製品が皆さんの目に直接触れることはなかなかありませんが、大地震から人の命を守り、あるいは新幹線や航空機、自動車といった移動手段の安全を確保するために「なくてはならない」製品をつくっているのが、私達KYBです。

現在は厳しい事業環境の中にありますが、当社は基盤となる技術と開発力をさらに磨き、付加価値を高め、よりグローバルで戦っていくことで、中長期の成長を目指します。当社の本源的価値に注目し、投資家として当社の経営に参加して頂けましたら幸いです。

―― 本日はありがとうございました!