医療の世界で活躍する会社は製薬会社だけではありません。医療活動に欠かせない「医療器具」も巨大市場です。血液を取り扱う医療器具で世界的なメーカーである 川澄化学工業株式会社。(採血や血圧測定で血液を入れるパックは、きっと同社の製品です)

医療器具は人体に利用するもの。品質が極めて重要。同社はさらに品質が求められる手術用の医療器具分野への進出が始まっています。

高齢化、医療費を含む社会保障費の抑制、医療分野での新興国市場の急激な拡大、そういう市場環境の中で、医療器具メーカーとしてどう成長していくのか、同社の新屋敷さんにお話を伺いました。

Q1: 御社のビジネスは何ですか?また、強みと特長についてもお教え下さい。

新屋敷:
当社は日本で初めて、プラスチック製の採血・輸血セットを実用化した企業でして、現在でも献血で使う血液バッグは国内で高いシェアを有しています。

血液バッグ

そして、もうひとつの事業の柱が人工透析に関連する製品です。
ダイアライザーと呼ばれる人工腎臓から、針(AVF針)、血液回路、そして生理食塩液まで、透析の治療に使われる主な製品は、装置以外はすべて自社で製造して販売しております。
当社は透析用AVF針では世界No.1シェア(当社調べ)を有しています。

人工透析

平成23年7月 個人投資家向け説明会 P15より引用)

―― ところで、IR資料を拝見しますと、人工透析と同じような図解で「血液浄化」とあったのですが、これは何ですか?

血液浄化

平成23年7月 個人投資家向け説明会 P19より引用)

新屋敷:
基本的な原理は透析とほとんど変わりません。
血液を体外に出してフィルターを通して有害な物質を除去することで治療をする仕組みです。透析の場合は対象疾患が腎不全だけなのですが、それ以外の治療に使われるものとお考え下さい。

当社としては、薬による治療とこの血液浄化の併用でさらに治療効果が高まる、そういった実績を積み上げることなどで、先生方にご提案していくことができれば、まだまだ今後、治療法として広がる可能性があると考えております。

―― 事業内容については、だいぶわかってきました。
それでは御社の特長、強みについてお伺いさせていただけますでしょうか。

新屋敷:
先ほど「日本で初めて、プラスチック製の採血・輸血セットを実用化した」と申し上げましたように、当社はプラスチックの成形加工から始まった企業ですので、精密成形加工、一般の射出成形よりもさらに精度が求められる加工は非常に得意としています。

それから、針。自社で製造・加工しているこの針は、透析分野では高いご評価をいただいておりまして、それが世界No.1シェアにつながっていると考えております。

そしてもうひとつは、成形から滅菌まで一貫生産できる、色々なデバイスを作ることができる技術と生産設備を持っていることも、強みですね。

 

Q2: 事業環境とその対応は? また、それに対応する戦略は?

―― 技術というお話が今、出ましたが、御社は現在、いくつかの新製品を開発中で
いらっしゃると聞きました。この内容についてお教えいただけますか?

新製品の上市計画

(クリックして画像を拡大: 平成24年3月期 決算説明会 P22より引用)

新屋敷:
これについては、当社が事業環境をどう見ているか、という話と合わせてご説明したほうが良いかと思います。

まず、国内の事業環境としましては、ご存知のように少子高齢化が進展していきます。
これは、たとえば、当面の透析患者数の伸びなど、当社にポジティブな影響を与える側面もありますが、やはり、大きなところでは、これが医療費抑制につながっていきますから、ダイアライザーや生理食塩液など、診療報酬改訂や薬価改訂(編集室注:いずれも2年に1度実施され、価格が引き下げられる)の影響を受ける製品を中心に、当社にとってネガティブな影響を与える面もあります。

こうした環境下で、いかにして成長を確保するのか。
重要なのは、医療技術の進展にともなって先端医療機器の需要が拡大する、また海外、特に新興国・途上国での需要が拡大する、ここを狙っていくことだと当社は考えています。

市場環境

(クリックして画像を拡大: 平成23年7月 個人投資家向け説明会 P30より引用)

―― 医療技術の進展で、先端医療機器の需要拡大…ですか?

新屋敷:
そうです。たとえばカテーテルなどはその代表例だと思いますが、これを使うことで、手術をしなくても治療ができる。
そうなれば、トータルで見れば入院代は不要になる、あるいは入院期間が短くなる。
つまり、トータルの医療費は安くなる。
しかも、患者さんの身体への負担も少ないわけです。

―― なるほど。「医療費抑制でお金がないから新しいものは使わない」ということではなく、
先端技術を使うことで全体の医療費が抑制できるならば、それは優先的に取り入れられていく可能性が高いということなのですね!

新屋敷:
ええ。国内では実際にそうなってきていますしね。

加えて、新興国についても経済成長が進展することで、富裕層が拡大しています。
彼らもやはり、最新の医療を望みますしそれをまかなうだけの経済力もありますので、やはりここでも先端医療機器へのニーズがあるわけです。

―― 先ほどの図表に示されていた新製品のうち、この先端医療機器に該当するものはどれなのですか?

新屋敷:
「胸部大動脈瘤ステントグラフト」などはまさにそうですね。
胸部大動脈瘤というのは大動脈にコブのようなものができる疾患でして、このコブが破裂すると、かなりの確率で死亡してしまいます。

ですから、コブを破裂させないために、ステンレスの骨格で作られたこのステントグラフトを、太もものところからカテーテルで挿入して、患部に到達したところでリリースします。
そうすると、バネ状にパンと膨らむことで大動脈内に壁を作り、破裂を阻止します。

それが、外科的な手術をせずに実現できる、そういった製品です。

胸部大動脈ステントグラフト

―― これは新規性という意味ではいかがなのでしょう?

新屋敷:
輸入品は他社が既に販売しているのですが、当社品は国産初の製品で、患部が曲がっている場合にも使え、また脳につながる血管を塞ぐことなく留置できるというのが他社品にない機能となります。

治験は終了しておりまして、昨年(2011年)の8月に承認申請済みです。
順調に行けば、今年の年末に承認、それから薬価収載されて、来年(2013年)の4月頃からの販売開始の予定です。

 

Q3: 今後の成長を見据えて取り組んでいることは?

―― それでは、開発中の新製品のうちの残り2つについてもお伺いしたいと思います。
「癒着防止材」とはどのようなものなのでしょうか?

新屋敷:
これは、手術後に臓器の癒着を防止する生分解性の材質で出来たフィルムです。
生分解性ですから後から取り出す必要はなく、だんだん自然に消えて行くというのが特長です。
これは治験を開始しておりますので、3年後ぐらいの上市を期待しています。

―― こちらは新規性という点ではいかがなのでしょうか?

新屋敷:
外資系企業は現在、2社ほど国内で販売していますが、国産では初となる予定です。
これがどこからスタートした開発品なのかと申しますと、当社が再生医療関連で様々な研究を進めていた中から、大学の先生と共同研究・共同開発してきたものです。
これはまずは国内での上市を目指しますが、将来的には海外での上市も検討したいと考えています。

―― では、最後のF-DLCステントについて教えていただけますか?
これは少し長期的に見ていく案件になるかとは思いますが。

新屋敷:
これも、大学と共同研究を進めている案件ですね。
これは主に冠動脈用に開発しているのですが、心臓の血管が詰まるのを防止するために、こういったステントと呼ばれる管を血管内に留置するものです。

では何が新しいのかと言えば、現在販売されている同様の製品は、管に薬剤を塗ってあるものが主流なんです。
なぜ薬剤を塗っているかというと、再狭窄を抑えるためなんですね。細くなった血管をステントで広げるのですが、またそこに血液が固まろうとしますので、その再狭窄をおさえる為に薬が塗ってあります。薬が徐々に放出されて再狭窄しないようにしているんですね。

これに対し、当社が現在開発を進めているF-DLCステントは、薬なしで再狭窄率を抑える、という点が画期的と言えます。
このステントの素材はDLC(ダイヤモンドライクカーボン)なのですが、DLCの表面にフッ素をコーティングするんですね。皆さんも、フッ素加工されたフライパンを使ったことがおありかと思いますが、あれと同じ効果を狙います。

つまり、表面を超さらさらにすることで、血栓ができない、再狭窄しない。そういった技術を使った製品です。

―― これは、世の中に同じようなものはあるのでしょうか?

新屋敷:
ありません。現時点ではおそらく…という言い方しかできませんが、おそらく世界初だと思います。

―― 開発段階としては?

新屋敷:
前臨床の段階ですね。
治験に入る前の段階ですからまだまだ時間はかかりますが、画期的な新製品になるものと考え、期待を持って開発を進めております。

Q4: 個人投資家の皆様へのメッセージをお願いいたします。

新屋敷:
本日ご紹介した新製品は、いずれも患者さんの身体的負担を軽減するものでもあります。

当社は、設立以来一貫して「医療を通じて、社会と人々の幸せに貢献したい」との想いで歩んできた企業ですので、事業環境が大きく変化し、厳しさを増す中においても、患者さんが安心できる医療機器を作り続けていくことで、社会に貢献してまいります。

―― 本日はありがとうございました!