海外に市場を求めざるを得ない日本経済において、翻訳というのは極めて重要な役割を果たすにも関わらず、翻訳業で上場している会社は、株式会社翻訳センター 1社しかありません。

製薬業界において新薬申請書は、時に薬の承認に係る最重要の書類です。特許申請書も同様に、企業の知財の生命線。
極めて高い品質を、秘匿性が求められるこの分野において、社員ではなく、登録翻訳者をコントロールして実現している、その業務ノウハウは驚異的です!
その形は今年急にニュースで聞くようになった「クラウドソーシング」の先駆けと言えると思います。

経営企画室の敦巻さんに、翻訳の最前線と、高品質を実現する秘密、じっくりと伺いました。

Q1: 御社のビジネスは何ですか?わかりやすく教えて下さい。

―― 翻訳会社としては、国内唯一の上場企業である翻訳センター様ですが、
そもそもなぜ上場を志されたのでしょうか?

敦巻:
上場の時に当社の代表が申しておりましたのは、業界そのものの認知度を上げていきたい、ということでした。

映画の字幕翻訳で有名な戸田奈津子さんをご存じの方は多いかもしれませんが、日本のグローバルビジネスを陰で支え続けている産業翻訳者の存在はほとんど知られていません。
また、翻訳という仕事自体が、欧米では一つの確立されたビジネス、知的プロフェッショナルの仕事として認知されているのに対し、日本ではその地位は必ずしも高いとは言えないという実情があります。

当社が上場し、他の翻訳会社さんもこれに続いてくだされば、業界全体の認知度や地位を上げることができる。
そうすれば、この仕事に誇りを持って従事する優秀な翻訳者が増え、その結果、日本企業のグローバル化や国際交流がさらに促進される…そういった未来を目指して上場させていただいた次第です。

―― 素晴らしいお考えですね。ところで、「産業翻訳」といってもイメージしづらい方も多いのではと思いますので、もう少し具体的な例を挙げてご説明いただけますか?

敦巻:
はい。こちらの図に、産業翻訳の対象となる代表的な製品や資料名をお示ししました。

身近にある産業翻訳

((クリックして拡大) 2012.8.29 個人投資家向け説明会資料 P6より引用)

皆さまもデジタル機器などを購入した際に、複数言語で書かれている説明書をご覧になったことがあるのではないかと思います。
また、デジタル機器の多くは海外で生産されておりますが、生産工場での機械の仕様書や現地従業員向けの作業マニュアル、現地会社で使う規程類などの人事労務資料など、産業翻訳は非常に幅広い資料を扱います。

また、昨今の日本政府の「クールジャパン戦略」により、日本のゲームやアニメ、マンガなどのコンテンツ類が広く海外に輸出されております。
ここ最近のトピックスとして、ソーシャルゲームの流行がありますが、それもこの領域に入ります。

これらはほんの一例ですが、当社グループは誰でもご存知の世界的大企業から、個人事業主・一般個人まで約3,500のお客さまにご活用いただき、ビジネスのグローバル展開を支えている企業なのです。

―― 産業翻訳の範囲は大変広いようですが、御社はどの分野が強いのでしょうか?
また、最近の需要動向や業績はいかがでしょうか。

敦巻:
当社の場合、特許と医薬、そして工業関連が案件の大半を占めております。
これらはあまり景気動向に左右されにくいという特長があります。

さすがに2008年秋のリーマン・ショック時には影響がありましたが、その後は業績も順調に伸び、前期末には売上・利益ともに過去最高を達成しました。今年も過去最高益の更新を目指しています。

売上高と経常利益

(2012.8.29 個人投資家向け説明会資料 P19より引用)

―― なぜ景気動向に左右されにくいのでしょうか?

敦巻:
特許と医薬については、お客様が翻訳に出す案件の大半はR&D(研究開発)につながる部分ですので、景気に関わらず一定水準の投資は続けなければなりません。ですから、一定の需要は常に発生します。

工業(製造業)関連については、現在、企業の海外進出が急速に進んでいるのですが、海外進出のためには必ず翻訳されなければいけない資料がたくさんあります。
たとえば、ビジネスを進めるためにまず必要となるのが、契約書。そして契約後、海外に出店したい、あるいは現地法人を作りたいとなった場合には、その関係資料として登記簿や現地の当局への提出する資料などが出てきます。

その後、海外に生産ラインを移設する――これが、製造業関連の日本企業が現在海外進出を進めている主な理由なのですが――となりますと、先ほども少しご紹介致しましたが、生産機材を動かすための取扱説明書やマニュアルの翻訳が必要です。

さらに、生産ラインを動かすことは通常、現地での従業員採用をともないます。
そうしますと、雇用に関する周辺の資料――これがまたたくさんあるのですが――労務規程はもちろん、就業マニュアル的ものから申請書的なものまで翻訳が必要となってきます。

―― 企業の戦略に関わる重要な翻訳ばかりですから、案件を獲得するためにはお客様との信頼関係が重要になりそうですね。

敦巻:
おっしゃる通りです。そこは、普段からお付き合いさせていただいている信頼関係の中でお仕事をお任せいただける部分もありますし、当方から提案営業も致します。

また、単に翻訳するだけではなく、高付加価値サービス――単なる翻訳ではなく、そこに付加価値を付けるようなサービスをご提供していまして、そういった部分の拡大も業績を支えております。

Q2: 御社の強み、他社との違いはどこにあるのでしょうか?

―― 高付加価値サービスとはどのようなものなのでしょう?

敦巻:
医薬分野の「メディカルライティング」という業務などはその好例です。
ごくわかりやすく申しますと、製薬会社様が、FDA(Food and Drug Administration: 米国で厚生労働省のような役割を果たす当局)などに新薬を申請する時に必要な資料を、翻訳するのではなく「原稿そのものから当社が作ってしまう」という仕事です。

―― なぜそのような仕事の需要があるのですか?

敦巻:
製薬会社が新薬を開発し、当局に申請して発売に至るまでには、10年以上かかると言われており、その間にかかる研究開発費は膨大なものになります。ですが、実際に世の中に薬として出る物はそう多くはありません。

加えて、近年は

  • 新薬が承認される確率が以前よりも低下
  • ジェネリック医薬品の台頭により、特許切れ後には医薬品から得られる収益が急速に低下

といった傾向が強まっているため、製薬会社様におかれましてもこれまで以上に厳しくコストの回収を図っていかなければならない、という状況にあります。

こうした環境下、従来は製薬会社様の社内のみで完結していた新薬申請に関する業務を、切り分けられるところから少しずつ外にアウトソーシングしていくようになりました。CRO(治験の受託)なども、この流れの中で生まれたものです。

メディカルライティングについては、従来
「研究者が日本語で書く→翻訳会社が翻訳→翻訳会社から戻ってきた原稿を研究者がチェック」
といったフローで作成していた海外向けの申請資料を、
「翻訳会社が英文で作成→研究者がチェック」
とすれば、時間と手間が省けるというところから、ニーズが高まって来ました。

―― 大変重要な業務をお任せいただくことになるのですね。

敦巻:
その通りです。申請のフォーマットは決まっているとはいえ、書き方次第で承認審査の結果を左右することもあり得るわけですから、非常に責任ある業務ですし、だからこそ価値あるサービスなのだと考えております。

また、メディカルライティングをお任せいただく際には、その手前の業務――臨床結果の翻訳や参考資料の論文翻訳などもまとめてご依頼いただくことも多く、その場合はまさしくお客様(製薬会社)の承認申請に関わる重要な一部分を当社が担うことになります。

そのように、トータルでお任せいただけるというところも当社がご提供できる価値であると考えております。

―― 他の翻訳分野でもこういった高付加価値サービスを提供しておられるのですか?

敦巻:
特許分野では、特許の出願を支援する業務を行っております。

メディカルライティングの場合は、「申請の資料を最初から英語で書く」という話でしたが、特許出願に関しては、出願する時に必要な書類――「特許明細書」という、これも非常にフォーマットが決まった書類(技術について説明する資料)があります。

通常の翻訳では特許明細書の原稿をいただいてそれを翻訳しますが、この「出願支援」では明細書自体を当社が作成し、さらに、それを当社の提携先である海外の特許事務所を経由して申請したい国の代理人に渡し、出願してもらうところまでを承っております。
自社で出願したいが、特許を取得するための専門知識や戦略はない。そういったお客様企業が「翻訳センターさんが、明細書の翻訳だけでなく出願までやってくれたら、どんなにか楽なのに」とおっしゃったことがありまして、その一言が、当社が特許出願支援サービスに乗り出すきっかけとなりました。

―― お客様のお声から生まれたサービスなのですね。

敦巻:
はい。結局、考えてみれば当然のことなのですが、お客様は翻訳そのものが欲しいわけではありません。その翻訳物を使って、何らかの目的を果たしたい。

そのためのアクションを起こす手段が翻訳物なのですから、その手段だけでなく「目的の実現」により近いところまで当社がカバーしワンストップのサービスをご提供することができれば、お客様の利便性は高まり、結果として私たちのサービス領域も広がっていくと考えています。

―― 高付加価値サービスをご提供すると、その周辺分野の翻訳も依頼されたり、リピート率が上がったりという効果もありますね。

敦巻:
既存のお客様からは、(メディカルライティングや特許出願支援などの)高度なことが出来るのであれば、今まで以上に翻訳を依頼しようとおっしゃって頂いたり、別の部署からもご発注をいただいたりというケースは確かに増えています。
現在はそういった相乗効果もうまく出てきている状況だと思います。

 

Q3: 事業環境とその対応は? また、それに対応する戦略は?

―― それではここで改めて、現在の御社の分野別売上割合をお聞かせいただけますか?

敦巻:
当社は、特許・医薬・工業・金融を「主要4分野」としておりますが、現在は医薬分野の構成比率が一番高くなっております。

分野別売上高構成

―― 上位3分野の市場動向について順におうかがいさせてください。
まずは特許分野についてはいかがですか?

敦巻:
これまでの特許出願先は米国と欧州(西欧)主要国、アジアでは韓国、中国ぐらいだったのですが、リーマン・ショック後は、東南アジアや南米など、新興国での特許取得ニーズが出てきました。
日本国内での特許出願件数は減っていますが、日本から海外への特許出願件数は伸びておりますので、そういった意味では当社にとって追い風の環境下にあると言えます。

―― 医薬分野の動向はいかがでしょうか。

敦巻:
引き続き堅調です。製薬会社については、先ほどお話しました要因に加えまして、
たとえば

  • 海外では認可されているのに、日本では認可されていない薬の承認申請
  • 生活習慣病など新たな成長領域での新薬承認申請
  • 新興国を含む海外向けの新薬開発

なども増えております。

当社は、医薬系調査会社が発行した「世界の医薬品売上高のランキング」上位30社のうち8~ 9割の企業様とはすでにお取引をさせていただいております。
日本の製薬会社が海外に申請するときも、海外の製薬会社が日本に申請するときのいずれもお手伝いができますので、ご依頼を頂ける案件はまだまだ増えると見ています。

―― では、工業についてはいかがでしょう?

敦巻:
当社の場合、工業の中でお取引が一番大きいのは自動車産業(完成車メーカーから部品メーカーまで)です。

リーマン・ショック後はこの分野の需要が一時的に大きく落ち込んだのですが、その後は新興国への展開などの動きが大きく、工業分野の中で一番勢いがあり、需要も伸びているセクターです。
当社もまだまだすべての完成車メーカー様とお取引できているわけではありませんので、当社の努力次第で、まだまだ「のびしろ」がある分野と考えています。

その他、工業分野で今後伸びる需要という意味では、インフラ輸出に注目しています。
鉄道や道路など、日本の技術を活かすインフラ関連企業の海外進出が活発になっておりますので、そこは当社もキャッチアップしていきたいですね。

 

Q4: 今後の成長を見据えて取り組んでいることは?

―― 3分野のいずれにおいても需要が旺盛とうかがいまして、大変楽しみなのですが、一方で、好調な業績を保っていく上で重要なのは翻訳者さんの確保や翻訳の質を保っていくことであると思います。
この点について、御社なりの対策をお聞かせいただけますか?

敦巻:
ご指摘の通り、翻訳会社として重要なのは

  1. 優秀な翻訳者の確保
  2. 原稿の内容に合った翻訳者の選定
  3. 翻訳の品質を保つ、

の3点ですので、これらの基本事項については、当社もしっかりと取り組んでおります。

まず「1. 優秀な翻訳者の確保」につきましては、産業翻訳では語学力はもちろん、技術知識などの専門性や文章力・スピードなども必要となるため、厳しい基準で審査した上で登録しておりますが、おかげさまで登録者数は右肩上がりに伸びています。

分野別 登録翻訳者割合

(2012.8.29 個人投資家向け説明会資料 P9より引用)

「2.原稿の内容に合った翻訳者の選定」に関しましては、「SOLA」という基幹業務システムを使って、翻訳者の選定から納品まですべてを管理しています。

この「SOLA」には、翻訳者のプロフィールや実績、翻訳の質から現在進行中のプロジェクトのスケジュールまで、様々な情報が一元管理されており、また、諸条件を設定して翻訳者を検索できるようにもなっておりますので、これを活用することで、より適切な翻訳者の選定が実現できております。

―― 「3.の品質管理」については、どのような取り組みをされているのでしょうか?

敦巻:
翻訳は社外の登録翻訳者に依頼しますが、校正作業は社内に在籍する校正スタッフ、ネイティブスタッフの他、案件に応じてメディカルドクターや弁理士などの有資格者からなる専門スタッフも品質をチェックすることで、専門性の高い翻訳についても品質を確保できるよう努めております。
一昨年から本格導入した翻訳支援ツール「HC TraTool」についても、原稿の重複箇所や用語の統一などを自動的に行い、品質の安定と向上に貢献しています。

翻訳プラットフォームの構築

(2012.8.29 個人投資家向け説明会資料 P17より引用)

その他には、客観的に――現場とは別の視点で翻訳の品質を担保出来るマネジメントシステムを構築すべく、今年の4月に品質管理推進部を立ち上げました。

翻訳には「正解」はありません。
人によって正解が異なるものの品質をどう保証するかは永遠の課題なのですが、この点について何らかの保証となるようなものを制定しようという動きが今、海外では出ております。

当社としてはそういった動きにもしっかりと目を配り、キャッチアップしていきたいと考えております。

―― 新分野への進出など、新たなお取組みがあればお聞かせいただけますか?

敦巻:
ローカライズ翻訳に本格進出したことは、是非お伝えしておきたいと思います。

ローカライズというのは、単なる逐語訳ではなく、現地の商習慣にまで合わせて翻訳してことを言います。
たとえば自動車のマニュアルを翻訳する場合。輸出先が左ハンドルの国向けには、右ハンドルの日本のマニュアルをそのまま翻訳するとおかしな箇所が出てきてしまいます。
あるいは、アニメーションや漫画。海外では国によって差別に当たる表現が違いますので、翻訳する時にはそういったところも注意して書き分けなければなりません。かといって原作の品質を損なってはいけませんので、そこは非常に気を使います。

ローカライズ翻訳は、当社が従来取り組んできた領域に比べますと工数が多く、より多くの人手がかかるため、これまで本格参入を見送ってきた分野ではあります。
ですが、海外の翻訳会社ではローカライズが出来て当たり前であり、やはり当社も今後を見据えて国内だけで収まっていてはいけない、海外に出ていこうと考えた時には、やはりそこに進出しないわけにはいかない、ということで、遅ればせながらではありますが、2年間の試行期間を経て今期から本格的に進出しております。

――  8月20日には通訳の老舗である株式会社アイ・エス・エス(ISS社)を子会社化したとのリリースがありました。こちらについてもご説明いただけますか?

敦巻:
先ほども申し上げたことではありますが、私たちのお客様は「翻訳」が欲しいわけではなく、他言語を使ってビジネスをしたいわけです。
ですから、私たちのすべき仕事は「お客様の言葉に関する言語障壁を取り除いていく」ことですし、その意味において、翻訳だけでなく通訳機能も強化していきたいという想いは以前からありました。
そうした中で、この度ISS社様とのお話がありました。

当社は翻訳、通訳や人材派遣などの業務を一部は行っておりますが、収益の9割以上は翻訳です。
これに対し、ISS社は通訳が8~9割ですから、当社グループに入ることでとお互いの弱い部分を補完し、より強くなることができる。

お客様企業から「言葉に関して困ったことがあれば、何でも翻訳センターに相談しよう」とおっしゃっていただける体制に近づいたと考えております。

――  登録翻訳者さんのスキルアップ、キャリアアップの意味でも通訳というのは良さそうですね。

敦巻:
はい、その通りです。なにしろ、ISS社は日本で初めて同時通訳の養成学校を作った企業で老舗中の老舗ですから、そこは大いに期待しています。

当社自身も現在、通信教育ではありますが翻訳者を育成する機関を持っていますので、これを通学という形態に昇華していくことが可能ですし、「将来言葉を使って仕事をしたいが、翻訳と通訳、どちらのスキルを伸ばせば良いのかわからない」といった方々に選んでいただける企業となることは、優秀な翻訳者を確保する意味でも大変重要です。

Q5: 個人投資家の皆様にひとことお願いします。

―― 翻訳の会社さんといえば受注産業というイメージがありましたが、次々と「攻め」の手を打っておられるのが印象的です。それでは、最後に投資家の皆様にメッセージをお願いいたします。

敦巻:
これまでは当社も「受注産業ですので(業績の先行きは読みにくい)」などの消極的な言い方をしてしまう部分もありましたが、今後は高付加価値サービス――お客様の困りごとを解決できるソリューションをご提案すること、言葉に関する困りごとがあれば一番にご相談いただける企業になることで成長を続け、株主・投資家の皆様のご期待にもお応えしていきたいと思っております。
皆様におかれましては今後とも、当社にご期待いただけましたら幸いです。

―― 本日はありがとうございました!