セイコーエプソン株式会社 と言えば家庭用プリンターの会社、そう思い込んでいませんか? 実はプロジェクター分野では、国内はもちろん世界でもシェアNo1 ! 特に法人・教育分野への浸透度は抜群です。

家庭用プリンターの国内市場は成熟しつつあるものの、法人市場への展開や、プロジェクター分野が成長している同社。今後どのような成長ストーリーを描いていくのか、気になるところです。

「簡単に成長できない状況というのは正直なところあります。それを打開するために、今まで手掛けていなかった領域にも踏み出していくことが重要です」とは今回インタビューを受けて下さった広報IR部の西村さん、坪田さん。

家庭用から法人・業務用分野へ。プロジェクターからヘッドマウントディスプレイへ――。
腕時計の精密加工に由来する高い技術に誇りを持ち、その強みを十分に活かしつつ、新しい分野へ取り組むセイコーエプソンの挑戦についておうかがいしてきました。皆様がお持ちの「セイコーエプソン」のイメージも変わること、請け合いです。是非お読み下さい!

Q1: 御社の強み、他社との違いはどこにあるのでしょうか?

―― EPSONと言えば「家庭向けプリンター」、コマーシャルの印象が強いためか、そのように思っておられる方が多いのではと存じます。
実際、御社の事業は何か?と聞かれた場合、どのようにご説明するのが適切なのでしょう。

西村:
確かに家庭向けプリンターも重要な事業領域のひとつですが、当社の場合、実は特定の製品ありきで考えているわけではありません。
コアとなる技術――精密メカトロニクス技術を基盤とした“省・小・精の技術”をどういった領域に、あるいはどのようなかたちで提供していくのが、お客様にとっての価値の向上につながるのかを考えています。
その取り組みの結果が現在の製品ラインアップでありセグメントであると、そう申し上げた方が正しいように思います。

そして、現在は、これまで展開できていなかった領域のお客様にも価値をお届けできるようすることで、エプソンの成長につなげていこうという取り組みに力を入れています。

長期ビジョンSE15

ホームページ「長期ビジョンSE15」より引用)

――「コアとなる技術」とは具体的にはどのようなものがあるのですか?

西村:
上の図に記載されている「マイクロピエゾ」「3LCD」「QMEMS」が代表的なものですが、いずれも、高い精密加工技術に支えられた技術です。

“セイコーエプソン”という名前でお気づきの方もおられるかと思いますが、当社の前身はセイコー(当時は服部時計店という名前でしたが)の腕時計の部品製造会社としてスタートした企業なのです。
そして、世界で始めてクオーツウォッチを開発したのが当社です。

クオーツウォッチには、皆様もご存知の通り、省電力が必要ですし、非常に小さな部品を極めて高い精度で製造することが必要になります。ここで培われた「省・小・精」の技術がエプソンを支える技術ということになります。

では、インクジェットプリンターに使われている「マイクロピエゾテクノロジー」についてご説明しましょう。

インクジェットプリンターは、インクを紙などに吐出することで印刷しているのですが、インクを吐出している部分をヘッドと呼んでいます。このヘッドに薄型ピエゾ素子を使い、微細なインクの粒を自在にコントロールできるようにしたのが、マイクロピエゾテクノロジーです。
直径数十マイクロメーターという微細なノズルがたくさん並んでいるのですが、そのノズルからは、1秒間に数万発ものインクが吐出されていて、飛び出るインクのサイズまでもコントロールしているのです。

ピエゾ方式には多くの優れた点がありますが、小型のヘッドを製造するためには並外れた精密さが要求され、量産化が難しいものでしたが、プリンター部門の専門性に、時計製造で培ってきた精密加工技術を融合することで、マイクロピエゾテクノロジーが生まれたわけです。

インクを、必要な量だけ必要な場所に、正確に吐出することができるこの技術を活用することで、それまで同時に実現が難しいとされていた「プリンターの小型化、印刷の高速化、高い耐久性」を実現し、質の高いプリンターを発売出来るようになりました。

―― どのような原理でインクを吐出するのですか?

西村:
「ピエゾ素子」の性質を活用します。
「ピエゾ(piezo)」とはギリシャ語で「圧力を加える」という意味でして、その名前の通り、電圧をかけると形状が変化する特性を持っています。エプソンのインクジェットプリンターでは、このピエゾ素子に電気を流し、電圧をかけることで素子の形状を変化させ、そのたわみの力を利用してインクを飛び出させます。これによって、インクを紙や他のメディアに印刷することができるのです。

―― この「マイクロピエゾテクノロジー」は、他社のプリンターで使っている技術とはどう違うのですか?

西村:
ピエゾ方式のほかには、サーマル方式と呼ばれる技術があります。
サーマル方式は、インクに熱を加えて気泡を発生させ、その力でインクを押し出しています。

この点、マイクロピエゾテクノロジーを使ったプリンターでは、インクに熱を加えるわけではありませんので、インクの選択肢がとても広くできます。インクに限らず液体性のものであれば何でも、そしてどんなところにでも吐出させることができますし、ヘッド自体の耐久性も非常に高いという特長があります。

Q2: 御社のビジネスは何ですか?わかりやすく教えて下さい。

―― そのマイクロピエゾテクノロジーを応用した製品のひとつが家庭用プリンターということなのですね。

西村:
その通りです。電気的に制御をしやすいピエゾ素子を使った方式ですので、高画質化ができたわけです。
これまでは、高画質化とともに市場が成長してきた家庭用プリンターに注力してきたのですが、マイクロピエゾテクノロジーの特長は高画質の他にもたくさんあるんですね。

ヘッドの耐久性や、色々なインクを飛ばすことができるといったマイクロピエゾテクノロジーの特長を、家庭用だけではなく、もっとビジネス用途、オフィスや産業領域といったところにも広げよう。マイクロピエゾテクノロジーに限らず、他の技術についても、そのポテンシャル(潜在力)を十分に拡げていこう、というのが当社の考え方です。

編集室注:
マイクロピエゾテクノロジーについては、ホームページにも詳しく解説されていますので併せてご覧ください。

―― 家庭用以外では?

西村:
耐久性や使用出来るインクの選択肢の広さ、そして極めて正確にインクを吐出できるといったマイクロピエゾテクノロジーの特長は、家庭用プリンター以外にも活きてきます。

大判プリンターの分野でも、グラフィック性の高い分野――たとえば印刷校正用のプリンターやポスター、グラフィックアートといった分野で特に評価されていますが、最近は、ラインアップを拡充し、サイネージ(看板広告)や、CAD、建設業界で印刷する地図などに使用していただけるような特長をもった製品も揃ってきています。

坪田:
「産業」といえば、エプソンにはデジタル捺染プリンターのように、一般の皆さんにはなじみの薄い製品も手がけています。

イタリアには捺染――ネクタイやスカーフなどの生地を染める方法などの繊維産業が盛んな地域がありますが、エプソンのヘッドが使われた捺染プリンターは広く使われております。
これまでの捺染といえば、印刷のための「版下」が必要になり、デザインされたものが実際の生地となるのは時間と手間がかかるものでしたが、インクジェットの場合は版下が要りませんので、必要なときに必要な量を短納期でできるというメリットがあります。

日本ではデジタル捺染の普及率はまだ低いのですが、昨年には、日本でのデジタル捺染の拡大を目指して、エプソン京都デジタル捺染センターをオープンしましたので、今後の普及に期待をしています。

―― プリンターで「染め抜く」のですか!

坪田:
染め抜くというより、柄にあわせて染料を印刷していると言ったほうが良いかもしれません。
この他にも、産業向けには、半導体などのマーキング用にインクジェットマーキングシステムやデジタルラベルプリンターというのもあります。
デジタルラベルプリンターは全体で5メートルもあるプリンターで、多分、これがエプソンで一番大きな製品だと思います。

このように、インクジェットでインクを吐出して、対象物に直接触れずに高い精度で印刷することができるマイクロピエゾテクノロジーの活用が進んでいます。

西村:
これらの取り組みの結果、商業向けや産業向けの比率が徐々に上昇しまして、インクジェットプリンター全体の売上のうち2割を超えるまでになってきました。

―― ところで最新のIR資料を拝見しますと、情報関連機器の売上が一番多いのですが、この中にはプリンターと、あとはプロジェクターなども含まれているのでしょうか?

事業セグメント別業績

(クリックして画像を拡大:2011年度(2012年3月期)第4四半期 決算説明会資料 P5より引用)

西村:
はい。
プロジェクターの話が出ましたので、2つ目のコア技術について申し上げますと、元になっている技術は「3LCD」と申しまして、光透過率の高い高温ポリシリコン液晶パネルを核とした技術です。

3LCDプロジェクターは名前の通り液晶パネルを3枚使っておりまして、光源の光をまずRGBの三原色に分けるんですね。
三原色の光をそれぞれの液晶でコントロールして形と動きを与え、それを1つの画面上で合成するため、他の方式に比べて、光を効率よく使えるので、明るくはっきりとした映像になりますし、ちらつきがなくきれいな映像をご覧いただくことができます。

―― なぜちらつきがないのですか?

西村:
別の方式は、DLPチップと呼ばれるひとつひとつが独立して動く極小のミラーを敷き詰めた半導体を使ったDPL方式があります。DLP方式にも3枚のDLPチップを使った方式と1枚のDLPを使った方式がありますが、コスト面から1枚の方式が多く使われています。

DLP方式の場合はDLPチップにあたった光の反射方向をコントロールすることで画像を映し出しています。
DLPチップを1枚使う方式は、DLPチップと光源の間にカラーホイールがありまして、RGB、それぞれの色のついたホイールがくるくる、くるくる回転していて、ある時には赤、ある時にはグリーンが投影されるといったように、時分割で色を出しているので、動きの早い映像で残像が見えやすく、映像がちらついたり、画面をスクロールした時などにも見づらいと、一般的には言われています。
こういった特長もあり、画質としては3LCDのほうが高いと私たちは考えています。

プロジェクターの市場の中でEPSONは、グローバルで25%程度の市場シェアを持っていまして、2位以下は10%程度ですので圧倒的ナンバー1と言って良いかと思います。

―― プロジェクターの市場全体はどのような状況なのですか?

プロジェクターの市場と用途

西村:
伸びています。
プロジェクターというと、私たちは「会社で」「プレゼンテーションや会議に使う」と考えがちなのですが、世界的には教育関係の需要の伸びが大きいです。

たとえば南米やアジアといった、いわゆるエマージング地域では教育への投資が非常に盛んですので、そういったところでプロジェクターの採用が増えています。

(参考:プロジェクターの市場と用途「教育」

 

 

 

―― なぜエマージング地域の教育ではプロジェクターが使われるのですか?

西村:
一人ひとりに教科書を配布するよりも、ネット経由で先生にデータを送って、それを教室に投映するほうがコスト的にも良いですし、授業を受ける生徒も大きな画面に字だけでなくて、映像なども映し出されるので、興味が湧いて、授業に集中できるということが理由のようですね。
先進国でも、たとえばイギリスなどはほとんどの教室にプロジェクターが導入されているという状況のようですし、エマージング地域への導入も進んでいます。

編集室注:
エマージング地域(新興国市場)へのエプソンの取り組みについては、2011年3月期株主通信のp5で特集されていますので、併せてご覧ください。

Q3: 事業環境とその対応は? また、それに対応する戦略は?

―― 今、プロジェクター市場の動向について少しお伺いしましたが、最近の業界の変化として、プリンターや映像分野でここ数年、特にリーマンショック以降の変動をどのように捉えていらっしゃるのか、改めてお聞かせいただけますか?

坪田:
先ほど申し上げましたように、プロジェクターの市場は、ここ何年もずっと安定的に伸びてきていて、まだ成熟はしていない市場、これからの市場だと思います。
その中で我々は毎年毎年少しずつシェアを伸ばしてきて、現在の「グローバルシェア25%以上」というポジションを得ている、そういった状況です。

西村:
プロジェクターに限った話ではありませんが、成長市場には競合の参入がつきものですので常に競争はありますが、当社の場合は比較的高いシェアを持っておりますので、ラインアップの拡充で戦っていくのが基本的な戦略となります。

これまでは、比較的中価格帯の製品が中心でしたが、大ホールや講堂などといった、高輝度が求められる分野への取り組みも進めています。

坪田:
次に、プリンター(インクジェット)について申し上げますと、こちらはリーマンショック以降、低成長の市場になっています。

我々としては家庭用のプリンター以外の事業を――具体的にはオフィスの需要、あるいは商業向け・産業向けの領域を広げることが基本戦略となります。もちろん、先進国ではラインアップの強化やお客様へのご提案――今であればスマートフォンから色々なものが印刷できます、といったご提案などで、現在の市場とそのシェアを維持していきます。

一方、新興国市場ではプリントのコストに関する関心が大変高いですので、印刷コストが安いプリンターの投入で成長を図っていくというのが今後の戦略になるかと思います。

西村:
プリントコストというお話が出ましたが、一般のお客様、株主様も含めてですが、インクジェットプリンターはインクが高いと思われているお客さんが多いと思うのですが、実はインクジェットの方がプリントコストは安いんですよ。
ですが、まだまだインクジェットってなんか高い印刷だなーというイメージを持っておられる方が多いと思いますので、日本ではこの点を訴求するコマーシャル(CM動画「経費庁 プリントコスト1/2編」)を今、一生懸命出しています。

Q4: 個人投資家の皆様へのメッセージをお願いいたします。

坪田:
個人的な思いなのですが、やはり個人の方々には、まずはエプソンの製品に興味をお持ちいただいて、「あ、こういう製品を作る会社なんだ」とご理解いただいた上で、それならエプソンに投資してみようか、と、そんな順序で株主になっていただけると嬉しいですね。

個人株主の方々とは、一緒に会社の成長について実感を共有していただけるような、そういった関係を築けたらと思っています。
ですから、個人の方々に身近な商品のところでより興味をもっていただける見せ方を我々としてもしなくてはいけないと思っていますし、実際に新しい商品を提供していく中で個人の方に接していけたらと考えております。

―― 具体的にはどのような「身近な製品」が出ているのですか?

西村:
たとえば、ヘッドマウントディスプレイ「MOVERIO」です。
この分野ではソニーさんもヘッドマウントディスプレイを販売されておられますので、それなりに認知が広がっているかもしれませんが、当社も特長のある製品を出しております。

(※製品情報: http://www.epson.jp/products/moverio/

坪田:
それから、この「WristableGPS」。これはGPS機能搭載のランニング用機器です。

(※製品情報: http://www.epson.jp/products/wgps/

―― ランニング機器の分野はGARMINさんやPOLARさんの製品が日本でも結構使われています。国産メーカーの製品がなかったのですが、そういった分野に出てくると。

西村:
販売も出足好調と聞いております。

坪田:
スポーツ関連でもうひとつ申し上げますと、昨年より、大手ゴルフ用品メーカーのミズノさんが新たに展開するゴルフクラブ選択支援サービスとダンロップスポーツさんのテニスラケットの選択サポートシステムに、エプソンの高性能モーションセンサーを活用した運動解析システム「M-Tracer」の提供が始まっています。

これはコア技術の3点目、QMEMSを元に開発したモーションセンサーで、エプソンが開発した、スポーツなどの運動情報を高度に解析できるシステムです。

―― これらを拝見すると、個人向けではかなりトガった企画が出てきている気がするのですが、そういった新しい企画を良しとするような流れが今、社内にあるのですか?

坪田:
ご指摘の通り、これまでは体制を整える3年間でしたが、ようやく今、成長に向けて足を踏み出せるフェーズに来ております。

当社の業績推移をご覧いただいた時、やはり既存の市場だけでは簡単に成長できない状況というのは正直なところあります。ではそれを打開するために何をするかという時、今まで手掛けていなかった領域に踏み出していくことが重要です。

既存領域のさらなる強化というのも当然あるのですが、単純な上乗せには限度がありますので、新市場、新領域への取り組みについては、現社長の碓井もかなり強く意識しているところではあります。

西村:
ただ新領域を立ち上げるときにも、突飛な新たな技術を使ってということではなく、既にある強い技術を応用できる領域をどんどん広げていこうという考え方ですね。

個人の方に身近に置いていただける製品の中にもそういった新しいものが出てきておりますので、是非手に触れて、お使いいただければと思います。

―― 本日はありがとうございました!