「どんな薬か」だけでなく、「どこの薬か」を考えたことがありますか

俳優の渡哲也さんが問いかけるテレビCMや企業広告でおなじみの第一三共株式会社は、日本を代表する新薬メーカーの1社です。

しかし2008年、第一三共は、ジェネリック医薬品メーカーであるインドのランバクシー・ラボラトリーズ社を買収し、世間をあっと言わせました。

新薬とジェネリック、そして先進国市場と新興国市場。
これらをすべて取り込んだハイブリッドな経営モデルへの転換を、世界に先駆けて目指してきた第一三共。
その挑戦は今、どのようなステージを迎えているのでしょうか?
コーポレートコミュニケーション部IRグループ長の近藤さんに伺いました。(前後編でお届けします)

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Q4: 今後の成長戦略は?

―― ありがとうございます。ランバクシーについては色々お伺いしましたので、
今度は第一三共の新薬ビジネスについてお話しいただければと思います。
先ほど、2000年代後半から薬事当局の承認が非常に厳しくなったとのご発言がありましたが、そういった事業環境下での研究開発戦略については、どのように考えておられるのでしょうか?

近藤:
第一三共が従来、新薬の研究開発で一番強いと自負していた研究開発、あるいは疾病の領域と言えば、高血圧や高コレステロール、糖尿病、あるいはそれらの症状がさらに進行した場合の動脈硬化や血栓症――当社では循環代謝というくくり方をしていますけれども――などです。私たちはこの領域で過去、世界的な製品をいくつも出してきました。

ですが、この領域からもう少し外へ目を向けていこう、というのがここ数年の研究開発における基本的な考え方となっています。
その背景にあるのが、先ほどお話した新薬承認のハードルが上がってきたという話です。

新薬として承認を受けるためには「既存薬に対していかにすぐれた薬なのか」ということを証明しなければならないのですが、そのためには世界規模の臨床試験が必要となります。たくさんの患者さんに入っていただくため時間も予算もかかる――それこそ、一本一本の試験に何百億円といった費用がかかるという世界ですから、研究開発費は膨らむ一方です。
ですが、一方で薬事当局から承認をもらえる確率は低下している。

こうした中で、循環代謝領域だけにとどまっていたのではリスクが高い。
もう少し別の所に目を向けなければいけないということで、第一三共ができてから重点的に取り組んできたのが、がん領域です。

―― がん領域には、色々な医薬品がすでに存在しているような印象があるのですが、その点についてはどのようにお考えでしょうか?

近藤:
そういった面もありますが、一方で、がん領域全般を見た時には、まだまだ決定的な治療薬というものは存在していないという認識を持っています。

確かに、効果のある薬は多数出てきましたが、一方で副作用の問題がまだ残っていたり、決定的な薬剤がなかったりという現実がありますから、実際にがん治療の現場で行われているのは、たとえばいくつかの薬剤を組み合わせるとか、そこに放射線療法を組み合わせるとかといった方法なんですね。

その意味において、がんの治療薬、決定的な治療薬についてはまだまだニーズがある。
私たちは、それを「アンメットメディカルニーズ」(満たされていない医療ニーズ)があるという言い方をしていますが、がん治療薬というのはそういった領域だと思っています。
「革新的な新薬を創出する」DNAと実績を持つ第一三共としてもチャレンジし甲斐がある領域であり、ビジネスチャンスも多く残っている領域でもある、そのように見ています。

―― ところで最近では、インフルエンザ治療薬の「イナビル」や認知症治療薬の「メマリー」が発売されるなど、今までの第一三共さんにはなかった領域の医薬品もラインアップに加わっているという印象があるのですが?

近藤:
そうですね。
研究開発の面では従来の「循環代謝」領域に依存するのではなく、がん領域にも力を入れると申し上げましたが、実際にはそれ以外の領域でも、新規性の高い化合物にチャレンジするということは我々のミッションとして持っておりますので、循環代謝とがん以外の領域でも新製品が出る可能性は十分に持っていると思います。

「イナビル」などは、その一例ですね。

 

 

編集室注:
「イナビル」は、2010年10月19日に第一三共が発売した抗インフルエンザ薬です。
これは錠剤ではなく吸入型の粉末薬で、1回のみの服薬で、他の抗インフルエンザ薬を5日間投与するのと同等の効果が得られるため、薬の飲み忘れによる病状の悪化などを防ぐことができるのが大きな特徴となっています。

自社の研究開発のみで、すべて第一三共グループ国内外の製品ポートフォリオを満たすことは、現実的ではありませんし、別な言い方をすればリスクが高い。
ですから、たとえば日本であれば、日本市場を担当している営業部門を交えた検討の結果、ニーズのある製品を外部から導入することで短期、あるいは中期的な業績への貢献を図っていく。そういった取り組みについても、近年はかなり積極的に進めています。

編集室注:
第一三共が2011年度~2012年度にかけて導入し、日本国内で既に発売している医薬品としては、「メマリー」の他に、プロトンポンプ阻害剤「ネキシウム」(2011年9月発売。胃・十二指腸潰瘍、逆流性食道炎等の治療)やヒト型抗RANKL抗体「ランマーク」(2012年4月発売。多発性骨髄腫による骨病変及び固形癌骨転移による骨病変の治療)、2型糖尿病治療剤「テネリア」(2012年9月発売)などがあります。
「ネキシウム」については、2011年秋発行の株主通信Vol.10に詳しく紹介されていますので、ぜひご覧ください。

―― 製品ポートフォリオを大きく変えていこうとされているのですね。

近藤:
そうですね。
現在の製品ポートフォリオは、日本でも米国でも欧州でも、高血圧症治療剤「オルメサルタン」(日本国内の製品名前は「オルメテック」)が中心となっています。
ですが、今後はオルメサルタンの特許切れ――その時期は国によって若干異なりますが、2016年から2017年です――を見据えて、徐々に次代を担う製品を育成する、置き換えていかなければならない、今はそういった時期にあります。

私たちとしてはこういった状況は、初めてではありません。
第一三共ができる前、旧三共では高コレステロール血症治療剤「メバロチン」の特許切れ後のポートフォリオをどう作るかが、旧第一製薬においては合成抗菌剤「クラビット」という、やはり重要な柱になっている製品の特許切れ後をどうするのかという時期を、5年前、10年前には既に経験しています。
製薬会社においては、新薬事業(当社ではイノベーティブ医薬品事業と呼んでいます)はその繰り返しですし、常に戦っていかなければならない宿命なんですね。

ですから今は、オルメサルタンのジェネリックが出てくる4~5年先までに、今持っている医薬品をどう育てるか、今研究開発の途上にある期待の新薬をいかに速く仕上げるか、そういったことも組み合わせて製品ポートフォリオを考えています。

―― 主力であるオルメサルタンについては、どのような戦略を持っておられますか。

近藤:
グローバルで見た場合には、オルメサルタンは既に売上のピークに差し掛かっています。
製品のライフサイクルとしては成熟期に入って来ていることは事実ですので、いかにして現在の売上規模を維持するかを課題とせざるを得ません。
その中では、配合剤、つまり他の成分との組み合わせによって付加価値をつけた製剤を日米欧で発売しておりますので、そちらへのシフトも進めつつ、短期的には現状の水準をできるだけ維持していくこと。

その一方で、オルメサルタンの依存度を徐々に下げる形で製品ポートフォリオの組み換えを行っていく、そういったターニングポイントにある状況です。

―― オルメサルタンへの依存度を下げていく時に「支える」製品としては、どのようなものを重視して、あるいは期待しておられるのでしょうか?

近藤:
まず、期待しているのは抗血小板剤プラスグレル(急性冠症候群の治療)ですね。
欧米では「エフィエント」という製品名で発売済みですが、日本での開発も最終段階に入りつつありまして、心臓系疾患の適応では2013年度中に承認申請できるものと期待しています。

もう一本、脳の領域での試験も行っていますが、こちらは試験そのものが2014年度までかかります。ですが、いずれにしても来年度以降、このプラスグレルを日本で拡大していくことについては、大いに期待しています。

プラスグレルはある意味、高齢化が進む日本市場においては不可欠な薬になると認識をしておりますし、実際、今後プラスグレルが戦うことになる競合品は、日本国内で近年ずっと伸びている。ですから、マーケット(市場)は十分ある、まだまだ拡大基調にあると見ています。

 

その他にグローバル展開しているプロジェクトとしましては、抗凝固剤エドキサバンがあります。
心臓周りの血管のパルスが不安定になった時(これを心房細動と呼びます)、その滞留したところで小さな血の塊(血栓)ができてしまう。血栓が血液を通じて体の中を運ばれて脳の血管、あるいは肺の血管に行きますと、非常に細い血管ですからそこで詰まってしまい、命にも係わる深刻な状態になります。

エドキサバンはそういった疾患の治療薬として、世界中で今臨床試験を展開しておりまして、2013年度以降にいよいよ世界各国で承認申請をしていくという段階にあります。

 

プラスグレルとエドキサバン、いずれも申請後の審査期間がありますので、製品として世に出てくるのは2014年度や15年度になるとは思いますが、オルメサルタンの特許期限である2016年、あるいは2017年の前にいち早くこれらのこの2つの製品を出して育成する、それによってオルメサルタンのジェネリックが出てきた時の影響を緩和し、その後は両剤を核に成長シナリオを描いていきたい。

さらに、プラスアルファとしては2015年前後からは、現在開発を進めている様々な抗がん剤も出始める、というのが我々の描いている姿でして、研究開発戦略としてもこのシナリオを念頭に置きながら、日本におけるプラスグレルの、そしてエドキサバンのグローバル試験を優先的に進めています。

Q5: 個人投資家の皆様に一言、お願いします。

―― 今年度(2012年度)は中期経営計画の最終年度にもあたっていますね。
新たな中期経営計画はどのような方針になりそうですか?

近藤:
現在(編集室注:取材は2012年9月半ば)、まさに検討作業がいよいよ佳境に入りつつあるという状況です。
第一三共の誕生以来、「第1期中期計画」、そして現中期経営計画である「第2期中期計画」と、3年間ずつ2本の中計を経て、事業展開という面ではさまざまな成果を挙げてまいりました。中でも、先にお話しましたランバクシーの加入と、これを通してグローバル展開がこれまでとはまったく異なる局面に入ってきたのは大きな成果と言えます。

しかしながら計数目標という意味では、第1期、第2期ともに目標数値に対してかなり開きがあったという現実もございます。
これは個人の方々に限らず、およそすべての株主様、そして投資家の皆様に向けて申し上げたいことなのですが、第一三共という新しい会社ができて6、7年たって、だけど期待どおりになっていないじゃないか、そういった現実は真摯に受け止めております。

ではどうしたら株主、投資家の皆様のご期待に応えられるのか、それはこれまで以上に厳密に計画して行かなければなりませんし、こういう姿、こういう方向性なら実現可能だということを皆様にご理解いただけるようなものにしていかないといけません。そしてそれを、我々としても2013年度以降の道しるべにできるようにと考えております。

―― 株主還元については?

近藤:
株主還元について、現時点では年間一株当たり60円という配当を継続的にお出しするということに重きを置いています。
これを配当性向といった数字でとらえるとちょっと配当が多すぎるのではないかという見方も一部にはあるのですが、今の私どもの経営方針としましては、株主の皆様にも色々な意味でご苦労いただいている、厳しい時期を支えていただいている部分があるという部分を十分承知しておりますので、その意味で、一株60円の配当というのは継続しております。

ただし、中長期的な戦略をこれから設計していく中で、キャッシュの使い道として、今後の成長を図る上ではどうしても必要な投資は出てまいります。
また、ランバクシーの株式取得にあたって発行した社債の償還の予定もございますので、これらの要因と、株主の皆様にしかるべき還元をしたいという当社の方針とを総合的に勘案し、中長期的な資金計画を含めて再度検証致します。

来春、次期中期経営計画についてお話する中で、株主様に対してはこういった還元を行いたいという考え方が固まれば、その時に改めてご説明したいと思っております。

―― 長時間にわたるインタビューにお付き合い頂きありがとうございました!