日本発の画期的新薬は生まれにくい。
がん治療には、強い副作用が付き物。
――そんな製薬業界の「常識」を塗り替えつつあるのが、中外製薬株式会社です。

同社が開発した国産初の抗体医薬品「アクテムラ」は、関節リウマチ治療薬として世界70カ国以上で販売される大型製品に。

副作用が少なく効果の高いがん治療薬としては、豊富な抗体医薬品を持ち、さらに今後は一人一人に合わせた「個別化治療」へと進化――。

「我々はあくまでも未充足の医療ニーズが高い領域で、今まで治らなかった疾患を治す薬を患者さんにお届けしていく」、そう自信を持って語る同社の広報IR部の内田さん、時田さんに、バイオ医薬品、抗体医薬品、そして個別化医療の現在と同社の強みについてお話を伺いました。

Q1: 御社の事業は何ですか?他社との違いや強みについても教えて下さい。

内田:
私たち中外製薬は、医師による処方箋(せん)がなくても薬局・薬店で購入できる一般用医薬品の開発はしておらず、主に病院などの医療機関の医師の診断と処方に基づき使用される医療用医薬品に特化した製薬会社です。
他の製薬会社さんとどこが違うのか?というご質問への答えとしては

  1. 売上の半分以上をバイオ医薬品が占めており、特に抗体医薬品に強い
  2. 世界有数のヘルスケア企業グループであるロシュ・グループの一員
  3. 国内ではがん領域でNo,1の市場シェアを持つ

の3点がポイントになります。
そして、もうひとつ。これは今後の話になりますが、

  1. 個別化医療(Personalized Health Care:PHC)への取り組みが進んでいる

ことも、是非ご注目いただきたいですね。

―― いきなり話が専門的になってまいりましたが、一つずつ、しっかりとお話を伺って行きたいと思います。まず、バイオ医薬品や抗体医薬品とは何なのでしょうか?

■中外製薬の特長その1
売上の半分以上をバイオ医薬品が占めており、特に抗体医薬品に強い (リンク:解説ビデオ)

内田:
バイオ医薬品は、遺伝子組み換えなどのバイオテクノロジー(生命工学技術)を活用して開発・製造された薬の総称です。抗体医薬品もバイオ医薬品の一種で、“「第二世代」のバイオ医薬品”とされています。

―― 第二世代があるということは、第一世代もあるのですよね。それはどんなものですか?

内田:
もちろん、第一世代はありますよ。
たとえば、糖尿病の治療などに使われるヒトインスリン。
これは米国のベンチャー企業、ジェネンテック社が1982年に開発したもので、世界初のバイオ医薬品と言われています。
それから、エリスロポエチン製剤。当社ではこれを「エポジン」という名称で腎性貧血の治療薬として開発し、販売しています。

これらの医薬品のように、人間がもともと体内に持っている物質を、遺伝子組み換え技術を使って大量に生産するのが「第一世代」のバイオ医薬品の特長と言えます。

バイオ医薬品

「中外製薬の個別化医療への取り組みについて」P4より引用)

―― では「第二世代」である抗体医薬品の特長は?

内田:
抗体医薬品は、ヒトがもつ免疫システムの中心である抗体を利用した医薬品で、特定の細胞や組織だけに対して反応する抗体(タンパク質の一種)を使うことで、たとえばがん細胞などの標的、つまり退治したい、あるいはその働きを抑えたい細胞だけを狙い撃ちすることができます。
ですから、治療の効果が高く、これまでの抗がん剤にあったような副作用が起きにくい

それが抗体医薬品の大きな特長ですし、がんや自己免疫疾患などの領域を中心に患者さんへの適用が急拡大している理由でもあります。

―― それは素晴らしいですね!需要も伸びているのでしょうね。

時田:
はい。日本の医薬品市場は全体で見ると成長が鈍化しているのですが、抗体医薬品の売上高は右
肩上がりで成長を続けています。その成長市場の中、当社は2011年時点で4割近いシェアを確保しています。

内田:
中でも大きく伸びているのは、当社が創製した国産初の抗体医薬品「アクテムラ」ですね。2008年4月に国内で関節リウマチの適応を取得して以来、急成長を続けています。海外では2009年に欧州、2010年に米国で承認を取得し、今では、世界100カ国以上で承認されるまでに成長しました。

もちろん、ロシュからの導入品では、「アバスチン」を始めとして、「ハーセプチン」「リツキサン」と、がん領域の抗体医薬品はいずれも大きく収益に貢献しています。

中外製薬の主な抗体医薬品

医薬品名 一般名 オリジン 主な適応 売上高
アバスチン 抗VEGFヒト化モノクローナル抗体 ロシュ 結腸直腸がん
非小細胞肺がん
乳がん
09/12 349億円
10/12 526億円
11/12 564億円
アクテムラ ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体 中外 関節リウマチ 09/12 173億円
10/12 268億円
11/12 380億円
ハーセプチン 抗HER2ヒト化モノクローナル抗体 ロシュ 乳がん、胃がん 09/12 297億円
10/12 253億円
11/12 259億円
リツキサン 抗CD20モノクローナル抗体 ロシュ 非ホジキンリンパ腫 09/12 211億円
10/12 230億円
11/12 229億円

――  今、「ロシュからの導入」というお話がありましたので、このあたりで「特長2」のロシュ・グループとの関係についておうかがいしたいと思います。

内田:
そうですね。
そもそも、今お話した「バイオ医薬品、抗体医薬品に強い」ことこそ、当社がロシュ・グループの一員となった理由のひとつですし、その結果でもあるんですよ。

■中外製薬の特長その2
世界有数のヘルスケア企業グループであるロシュ・グループの一員

内田:
当社は、1980年代からバイオ医薬品の研究開発に取り組んで来ましたので、早い段階からバイオ――特に抗体医薬品が成長の鍵になることを確信していました。

ですがバイオ医薬品は、研究開発だけでなく、量産もまた大変難しいのです。
当時の企業規模ではこの分野での安定的地位を維持し続けることは困難であると判断せざるを得ませんでした。

―― なぜ量産が難しいのですか?

内田:
何しろバイオ医薬品は生き物ですからね…。
培養した細胞を、段階的に容器やタンクの大きさを上げながら増やしていくのですが、一定の品質を保つには大変高度な技術とノウハウが必要ですし、量産となると大規模な設備投資も必要になります。

当社がバイオ医薬品の研究開発と生産に強いロシュ・グループに加わることを決めた大きな理由の一つは、ここにあります。

培養槽

編集室注:
バイオ医薬品の製造工程については、こちらのページで詳しく説明されていますので、あわせてご覧ください。

―― なるほど。でもなぜロシュ・グループを相手先として選んだのですか?

内田:
当時、すでにロシュグループ入りしていたジェネンテックは米国一の、ロシュは欧州一のバイオ医薬品生産能力を持っていました。

研究開発面でも、世界トップクラスの力を持つロシュに、世界初のバイオ医薬品を生み出したジェネンテック、そして「バイオの中外」。この3社が協力すれば、名実ともに「トップバイオ医薬グループ」の地位を確立することができる――そういったビジョンを持ちまして、戦略的アライアンスの締結に踏み切りました。

医薬品産業と中外のビジネスモデル

(クリックして画像を拡大:大変革を迫られる医薬品産業と中外のビジネスモデル P16-17より引用)

時田:
当社はロシュが約60%の株式を保有していますので、個人投資家さんの中には、中外はロシュの子会社、あるいは日本の販社(販売会社)としてしか見ていない方もいらっしゃるのですが、それはまったく違います。

当社はあくまで自主経営ですし、リサーチはちゃんと別々にやっていて、当社が開発したものをロシュが販売することもあり――アクテムラはその代表例です――、その逆もある。
つまり双方向、WIN-WINの関係にあるというのが大きな特長です。

内田:
日本は、単一の国としての医療用医薬品市場規模は、アメリカに次いで第2位です。
だから、日本市場でどう戦っていくかは、日本企業だけなく、グローバル製薬企業も皆、非常に重要視せざるを得ないという事情があります。

この点ロシュは、中外との提携前には日本ロシュという子会社を有していて、日本市場では37~38位であったところが、(日本ロシュが中外と経営統合することで)4位ぐらいまで上がることができた。
そしてバイオ医薬品の領域ではNo.1の企業グループになり、今後は個別化医療でさらに独自のポジションを築いていくことができるようになっている。

これらはロシュ単独でも、ジェネンテック単独でも実現できなかった。
中外が加わり、3者がシナジーを発揮することで初めて実現できたものであると、そういった認識はお互いに共有しています。

編集室注:
最近、民間の調査会社が公表したレポートでは、1993年から2012年5月末までに日本の特許庁で公開された関連特許を対象に、抗体医薬品の特許総合力を調査したところ、1位はジェネンテック社、2位は中外製薬、そして8位にロシュ社(前回調査時は67位)がランクインしていると記載されていました。(詳細はこちら
「トップバイオ医薬グループ」としての力が現れたひとつの結果と感じました。

■資格中外製薬の特長その3
国内ではがん領域でNo,1の市場シェアを持つ

内田:
ロシュグループ入りによって得た成果は色々ありますが、外から見ていただいた時にもわかりやすいもののひとつが、この「国内がん領域No.1」です。

こちらの図をご覧いただくと、がん領域を筆頭に、当社の製品および開発品の数がグループ入り後、格段に充実していることがおわかりいただけると思います。

統合の成果(製品・開発品)

先ほど、抗体医薬品はがん領域で多く使われるとお話をしました。それは、がんの治療においては、他の疾患以上に「より的確に治す」「副作用を減らす」薬が求められていることの証左でもあるんですね。

ですから私達は今、「アバスチン」「ハーセプチン」等の抗体医薬品について、がん領域での適応拡大に向け一層の開発を進めているほか、分子標的治療薬(編集室注:がん細胞に特有あるいは過剰に発現している特定の分子を狙い撃ちにして、その機能を抑えることにより病気を治療する治療法。抗体医薬品以外の分子標的薬もあります)を中心に、個別化医療に基づく新規化合物の開発プロジェクトも複数進めています。

これらの取り組みは、がん領域における当社のポジショニングを、今後も一層強化していくはずです。

Q2: 事業環境とその対応は? また、それに対応する戦略は?

インタビュー後編に続く 「事業環境とのその対応は?また、それに対応する戦略は?」 >>

こんな質問が続きます!

―― ありがとうございます。だいぶ御社の特長がわかってきましたところで、今度は事業環境認識についてお伺いしたいと思います。
今、特に先進国市場では医療財政の逼迫を背景に後発医薬品の台頭も著しいですから、新薬の開発を中心とされる製薬会社さんには厳しい事業環境と一般的には言われておりますけれども、この点について、御社ではどのようにとらえておられますか?