家の中には、ドア・鍵・取手・蝶番等、見渡してみるととても多くの金具が使われています。
そして、国内住宅のボリュームゾーンはこれまでの子育て世帯向け住宅から、中高年向け住宅に移りつつあり、バリアフリー住宅のニーズも高まっています。

今回お話を伺うのは、建物金具・家具金具を扱う、創業から110年!の老舗、アトムリビンテック株式会社
国内住宅市場の現在について、そして市場の変化に老舗がどう変化しているのか、経営企画室長の金子さんにお話を伺いました。

Q1: 御社のビジネスは何ですか?わかりやすく教えて下さい。

―― 御社の事業領域は「住宅用内装金物」であると伺ったのですが、“内装金物”とは具体的にはどのようなものなのでしょうか?

金子:
一般的に金物業界は建築金物、家具金物、家庭金物(鍋・釜など)、利器・工具(ペンチ・ドライバーなど)の4分野によって構成されています。
伝統的に別分野として区別されていた実用本位の建築金物とデザインを重視する、家具金物の特徴を融合させたオリジナル性の高い金物を“内装金物(住まいの金物)”、と認識していただければ有り難いです。

もちろん、様々な製品があるのですが、ドアや家具などの蝶番のほか、ドア錠や取手、引手、戸車、レール、スライドレール、キャスターなど、住まいのいたるところで使われている身近な部品というとご理解いただけるかもしれません。

こちらのページ(HP)にも掲載しておりますが、住宅の中の「動かす部分」「動作のある部分」に使われていることが多いと思います。
皆さんの家のドアや家具などに、かなりの確率で当社がご提供する部品が使われていると思います。

―― 帰宅して部屋に入るまでに何度も御社の製品に触れているのかもしれないのですね。

金子:
はい。当社は販売先が家具メーカー、建築金物店、ハウスメーカー、住宅設備機器メーカーなどですので、消費者様との直接の接点はほとんどありません。
ですから、当社の製品を使っていると認識しておられるお客様は大変少なく、その点はとても残念なのですが、実は「ATOM」ブランドの製品は皆さんの身の回りの色々なところにあるんですよ。

―― ところで、今いただいた名刺に「住まいの飾り職人、アトムリビンテック」と書いてあるのですが、なぜ“住まいの飾り職人”なのですか?

金子:
当社の創業は、明治36年(1903年)。創業者は、鏡台、茶箪笥、長火鉢などの江戸指物(編集室注:指物とは、木と木を組み合わせて作られた家具や建具、調度品などのこと)の金具職人――繊細な装飾と微妙な細工の技術を駆使する錺職(かざりしょく)でした。

その意思を受け継ぎ、当社は繊細・精密な作り込みやデザイン性を重視した製品を企画・開発していること、そして、創業から数えれば実に110年もの間、住宅用の内装金物一筋に作りこんできた企業である、そういったメッセージも込めて「住まいの飾り職人」と申し上げています。

―― 自社で企画・開発される製品が多いのですね?

金子:
取扱製品の80%以上が自社で企画・開発した製品となっています。
内装金物の分野はアイテムが大変豊富ですので、100%というわけにはなかなかまいりませんが、独自性を持った商品開発を基本に、「アトムブランド」の価値を高めていきたいと思っています。

―― アイテム数が多いのですね。

金子:
はい。
年々増加しておりまして、現在で5万アイテムをはるかに超えるまでになっています。

Q2: 御社の強み、他社との違いはどこにあるのでしょうか?

―― 御社ならではの特長や強みとしては、どのような点があるのでしょうか?

金子:
まず挙げられるのは、事業領域(事業ドメイン)です。
実は、私たち「内装金物」というのは、建築金物と家具金物の両方にまたがる当社独自の事業領域として定めているものなのです。

「建築金物」の業界には大企業が多いのですが、木製金具用金物、内装金物の取扱は多くありません。一方で、「家具金物」の業界は、業績こそ長いのですが規模としては中・小規模の事業者さんが多いのです。
このため、当社のように取扱アイテム数が多く、内装金物全般をカバーするような企業はほとんどありません。

その結果、当社は局地的には競合する企業があっても、事業領域全体での競合は比較的緩やかで、収益を確保しやすい、そういったポジションを築くことができています。

金物業界における「内装金物」

金子:
次に挙げられるのは「生産設備を持っていない」ことです。
企画・開発・販売に特化することで、柔軟な発想でのモノづくりが可能になり、生産についても、その時に合った形で体制を構築することができます。これも、収益基盤の強化に役立っています。

―― 事業ドメインの独自性、そしてファブレス(工場を持たない)経営。
その他には何がありますか?

金子:
あと2点ほどあります。
ひとつは、営業ルートが全方位的であること。
当社の直接のお客様は、同業他社(金物の卸売業)から建材メーカー、ハウスメーカーなど、内装金物を取り扱うあらゆる層にあり、アクティブクライアント(=恒常的に取引があるお客様)だけで1,000社に近い企業があります。私たちは、これらのお客様の動向から市場のニーズを見極め、新たな製品開発に活かしています。

そして今ひとつは、先にも申し上げました「企画・開発力」です。
2010年には「営業設計グループ」――営業マンと一緒に様々なお客様に訪問させていただいて、その中で生の情報、ニーズを入手して迅速に製品開発につなげるといった活動をしています。
そして、これらの強みを活かして当社が生み出したヒット商品が、「ソフトクローズ」です。

―― ソフトクローズについて詳しく教えていただけますか?

金子:
はい、これは文字通りソフトに、ゆっくり閉まる、そういった引き戸の機構です。
ご自宅に引き戸がある方は、バーンと閉めると跳ね返ってしまったり、音がうるさかったり、あるいは閉めたつもりでも開いていたり、といったご経験があるのではと思います。

当社のソフトクローズでは、引き戸に内蔵されたオイルダンパーが閉まる直前にきゅっとブレーキをかけて、その後は内蔵されたバネの力でゆっくり扉が閉まってまいります。

動画:ソフトクローズ

(クリックして動画ページに移動)

―― これはマンションと戸建、どちらに向けた製品ですか?それとも両方でしょうか。

金子:
両方ですね。
ほとんど全ての引き戸に対応できるよう、様々なタイプを揃えていますし、後付けの商品もございますので、リフォームニーズにも対応できます。
おかげ様で、ソフトクローズはマンション・戸建の別を問わず、標準的な要求になりつつあります。

―― 本格的な需要拡大期に入りつつあるということでしょうか?

金子:
はい、そのように思います。
このヒットを見て追随して来られたメーカーさんもありますが、当社がいち早く商品群の開発強化と市場への浸透を進めてまいりました結果、ソフトクローズ機能を搭載した折戸や引き戸に関しては当社がプライスリーダーとして価格形成ができる、優位性ある形で展開を進めることができました。
その結果、現在ではソフトクローズ関連は全社売上高の1割以上を占める基幹商品群となり、利益面でも当社の成長を牽引しております。

―― 市場に先駆けることが大事なのですね。

金子:
はい。やはり後手に回れば回るほど、価格競争に巻き込まれてしまいますので…。

当社は、これまでの110年の歩みのなかで時代の要求、ニーズに合った製品をさまざま開発してまいりましたが、今回の「ソフトクローズ」は、“安全、快適で静かな”引き戸が市場で求められている、そういったニーズをしっかりと捕捉して、他社に先駆けた製品開発と市場浸透ができた、それは非常に大きかったと思います。

編集室注:
アトムリビンテック様の広報誌175号177号
では「ソフトクローズ」の開発裏話「ズームイン!引戸ソフトクローズ」をお読みいただくことができます。是非併せてご覧下さい。

(↑クリックして画像を拡大)

Q3: 事業環境とその対応は?また、これに対応する成長戦略は?

―― ところで先ほど、ソフトクローズはリフォームでもニーズが高いというお話がありました。リフォームは今後成長市場になるという話がありますが、取り組み方針としてはどのような?

金子:
ご指摘の通り、今、政府はリフォーム関係に大変力を入れています。
2020年度に中古住宅流通とリフォーム市場の規模を現在の倍にあたる20兆円規模に拡大することをめざす、そういった目標値も掲げられていますので、当社としても当然、この市場に対応していくことを重視しています。

ただ、新築住宅の場合はハウスメーカーさんに一度に納入できるのですが、リフォームの場合はそれが1個、2個という単位になる…そういった難しさはありますので、たとえばリフォームでもまとまった物件を持っておられるディベロッパーさんにPRしていく、そういった取り組みも今後は強化していきたいと考えています。

―― ディベロッパーさんへの営業が重要になると。

金子:
はい。これはリフォームに限らず新築住宅の場合もそうなのですが。

実はこれまではルート営業が中心で、また、工務店さんなど、実際に施工をされる方々に向けたPRが多かったというところがありました。
ですが、現場では設計段階で決まったものが採用になることが多いため、営業活動の効果が発揮できていなかった面もあります。

そこで現在当社は、ベテラン営業マンからなる販売促進グループを立ち上げまして、ハウスメーカーさん、ディベロッパーさん、あるいは設計事務所といった上流工程――設計段階に向けた営業活動を強化しています。
商品の認知活動や提案活動を進めてきた結果、徐々に成果が上がりつつある、現在はそういった状況です。

―― 新築住宅市場の今後については、どのように見ておられますか?

金子:
全体として見れば、決して楽観できる状況ではありません。
新設住宅着工件数は、過去には年間160万戸を超えた時もありましたが、徐々に低下傾向にあったところ、改正建築基準法、そしてリーマンショックを機に大きく落ち込み、平成23年度では84万戸となっています。

足元では震災後の復興住宅の増加、消費税増税を見据えた駆け込み需要などを受けて回復傾向にはありますが、より長期的に見れば2015年にピークアウトすることが想定されている少子化による世帯数の減少問題や空き家率の増加、住宅の長寿命化などが、着工件数を押し下げる方向に働くと見ています。

―― 消費税増税はご自宅を買われる方にとってはすごく関心の高い問題ですよね。

金子:
ええ、やはり非常に大きな買物になりますので…。政府の方でも住宅関係については軽減税率なども検討されているようですが、現時点では大変不透明ですね。

では、そういった住宅市場の中で当社はどのような戦略をとっていくのか。
今年度(2012年7月1日~)にスタートした3カ年の中期経営計画では、「次世代に向けた企画開発力の向上」をテーマに、経営環境の変動に左右されにくい事業基盤の確立を進めています(中期経営計画にリンク)

ソフトクローズ関連商品のヒットは、付加価値の高い商品を提案し、市場の潜在需要を掘り起したからこそ実現したものです。全体としては縮小する市場においても、拡大可能な部分を取ってに知恵を絞っていく。それが基本的な考え方です。

ここ数年の改革によって、当社の商品開発基盤は一層強化されました。
実際、ソフトクローズ関連商品の他にも感知式耐震ロック(感震くん)や、ペットドアなど、当社の企画・開発力を活かしたユニークな商品は多数あり、今後も市場の潜在ニーズをとらえた画期的な商品の開発を継続していくことが、攻めと守り、両方の意味での戦略の要になっていきます。

―― 提案型の商品が増えそうですね。

金子:
そうですね。
提案型、と言えばここで新橋にある「アトムCSタワー 」についてもご紹介させて下さい。

アトムCSタワー

これまでの当社はほぼB to Bに特化しており、直接個人のお客様と接する機会はほとんどありませんでした。
ですが、今後はこの「アトムCSタワー」を拠点として、高感度のお客様をターゲットに住空間、そしてライフスタイルそのもののご提案を強化していきます。

そして、当社は一層(プロダクト・アウトではなく)マーケット・インの発想を強く意識したものづくりを進め、「内装金物」から「住空間創造企業」へと発展を目指します。

Q4: 個人投資家の皆様へのメッセージをお願いいたします。

―― 来年度は、創業110周年。
老舗として、また新たな挑戦をしていかれるのですね。

金子:
はい。今回の中期経営計画では“「古くて新しい企業」として持続的な成長を続けるために「伝統と変革の調和的融合」”を図ることを基本方針のひとつに掲げています。

―― 伝統と言えば、今おじゃましているこの本社(入谷)は、江戸時代から続く朝顔市が
毎年開催される場所のすぐ近くですね。街並みにも歴史を感じます。

金子:
まさしくここは、創業者が飾り職人として事業を始めた土地です。
下町の人情と風情を残すこの地は、かつて職人の町でもありました。今も路地を一つ入れば、その頃の名残を見ることができます。
今はなくなってしまいましたが、以前は家具屋さんがとても多かったんですよ。家具の木工メーカーさんも何件かありまして、そういった中で、当社は長年、事業を営んできた、そういった歴史がここにはあります。

―― 老舗が今も続いているということは、これまでも何かを変え続けてきたはずですものね。新橋のCSタワーと入谷の本社、ずいぶん雰囲気は違いますが、両者の融合から生まれる価値に期待したいです。

金子:
ありがとうございます。古い(歴史ある)企業だから古いままでいいということではありません。進取の精神がなければ淘汰されてしまいます。
当社は、「住空間創造企業」としての将来的な展望を持ちながら、新しいものと伝統あるもの、既存事業と新規事業、これらのシナジー(相乗効果)を発揮することで、成長を目指してまいります。

―― 成長を株主さんと共有するという意味で、配当についてはどのような方針で臨まれますか?

金子:
はい。当社では、株主の皆様への利益還元を経営の最重要課題として捉え、積極的な配当を行うことを基本方針に掲げてまいりました。
第58期につきましては、期末配当金を1株につき10円とさせていただき、中間配当金の10円と合わせ、年間配当金を20円とさせていただきました。
また、第8次中期経営計画におきましては、つねに着実な株主還元を目指すべく、「年間配当金は利益水準に関わらず、最低でも1株当たり20円を維持する」ことといたしました。これをベースに業績や記念事業に応じて、より踏み込んだ株主還元を実施すべく努めてまいります。

―― 本日はありがとうございました!