山中教授のノーベル賞受賞以来、株式市場でも注目が高まる日本のバイオベンチャー企業。その数が本格的に増え始めたのは、1999年のことでした。大学発ベンチャーの設立が活発化したこの年に産声をあげた企業のひとつが、アンジェスMG株式会社です。

同社は2002年9月、産学連携の創薬ベンチャーとして初の上場を果たしました。
それから、10年。高騰を続ける新薬の研究開発費と研究期間の長期化、一方でリーマンショック以降の資金調達環境の悪化を受けて、多くのバイオベンチャー企業が主要プロジェクトを早期にライセンスアウトしていく中、「自社開発」に注力してきたアンジェスMG――その道のりは決して楽なものではありませんでした。

しかし今後、安倍政権の成長戦略の一環としての薬事法改正が承認されれば、遺伝子治療薬を含む再生医療等製品の早期の実用化に対応し、早期段階で仮承認する条件付承認制度が実現され、アンジェスMGの開発品にも追い風となる可能性があります。

上場直前の就任以来、同社の舵取りを担ってきた山田社長に、アンジェスMGの目指すところと創薬の現状、そして今後の戦略と見通しについてお話をうかがいました。

Q1: 御社のビジネスは何ですか?わかりやすく教えて下さい

Q1-1:事業内容を教えてください。

山田社長:
先端技術を活用したバイオ医薬品の開発・製造販売。難治性疾患や治療法がない疾患の革新的な治療薬をつくること、それがアンジェス(※フランス語の「エンジェル(天使)」の意)の使命と考えております。

大学発の創薬ベンチャーである当社創業のきっかけは、HGF遺伝子治療薬「コラテジェン」です。
「コラテジェン」の、HGF(ヘパトサイトグロースファクター)の遺伝子を投与することで血管が新しくつくられる(=血管新生)作用を活用すれば、血管が詰まり血流が悪くなっている虚血性疾患に対しこれまでにない作用を有する治療薬になる可能性があります。
以来、当社はコラテジェンをパイプラインの中核に据えつつ、革新的新薬の開発を進めてきました。

Q1-2:開発パイプラインの現状について教えてください。

山田社長:
研究開発パイプラインおよびスケジュールは図表の通りです。
2015年頃の上市を目指していた「アロベクチン」は残念ながら今年8月、開発元から「中止」の発表がなされました。
(※本件に関するリリースはこちら(2013.8.12リリース2013.8.13リリース

しかしながら、当社の中核プロジェクトであるコラテジェンについては、米国の当局(FDA)からもSPA合意、Fast Track指定を受けるなどご期待をいただき、国際共同Phase3試験の準備段階にあるほか、すでにPhase3を終了していた国内での開発も、このたび再開に向けて着手いたしました。

さらに、開発中の子宮頸部前がん病変治療ワクチン(CINワクチン)については、厚生労働科学研究費補助金の医療技術実用化総合研究事業に採択されました(2013.8.27リリース)。今秋にはその他のイベントも控えています。
これらをしっかりと進めることで早期黒字化と株主・投資家の皆さまのご期待にお応えできるよう、全力で取組んでまいります。

なお、進捗については逐次、株主・投資家の皆さまにご報告してまいりますのでこの点についてはどうぞご安心ください。

開発パイプライン(開発ステージ別)

(クリックして画像を拡大 2013年9月7日開催 個人投資家向け会社説明会資料:P11より引用)

コラテジェン(HGF遺伝子治療薬)開発状況

(クリックして画像を拡大 2013年9月7日開催 個人投資家向け会社説明会資料:P14より引用)

Q2: 御社の強み、他社との違いはどこにあるのでしょうか?

Q2-1:米国におけるコラテジェンの開発(適応症:重症虚血肢)

Q2-1-1:米国におけるコラテジェン開発の概要について教えてください。

山田社長:
コラテジェンの血管新生作用を活用すれば、血管が詰まり血流が悪くなる疾患、たとえば末梢性血管疾患や虚血性心疾患を治すことができます。
現在は、末梢性血管疾患の一種である「重症虚血肢」――重症化すると脚の切断、そして死亡に至ってしまうこの疾患の治療薬として、米国での開発を進めています。

米国では毎年30万人以上の方が重症虚血肢で脚を切断し、その後多くの方が死に至っています。しかし現状ではこの疾患に対する有効な治療方法がありません。コラテジェンは、これまでの開発結果で脚の切断回避率、その後の死亡率ともに大きく改善できることがわかっております。
米国の当局(FDA)からSPA合意、Fast Track指定を受けているのは、コラテジェンが社会的に非常に重要な薬、これに代わるものがない薬として、ご期待をいただいているものと理解しています。

なお、現在有効な治療法のない重症虚血肢を治療する医薬品の潜在市場規模は、米国で50億USドルに達するとも推定されております。当社はコラテジェンをこの分野における治療薬の第一号として上市させ、出来るだけ多くの患者様に貢献していくことを目指します。

Q2-1-2:グローバルPhase3 試験は非常に多くの資金を要するものと聞いています。御社も最近、大きな資金調達をされたとリリース等でうかがいました。昨年10月に締結された田辺三菱製薬との契約との兼ね合いを含めて、お話いただけますか?

山田社長:
途中でライセンスアウトすることなく、上市まで自らが開発を行う当社にとって、研究開発資金の調達は非常に重要です。
当社は、製薬会社との提携を積極的に行うことで開発協力金を受け取りつつ開発を進めています。コラテジェンの米国での開発に関しては、田辺三菱製薬株式会社との間で昨年10月に、コラテジェンの米国における末梢性血管疾患を対象とした独占的販売契約を締結しました。

ただしこれは開発の進捗に応じてマイルストン収入が発生するものとなり、開発費用を当社が先行で負担するかたちになりますので、今回の臨床開発――国際共同Phase3試験への着手にあたりましては、我々なりに資金調達をして研究を進めなければなりません。

こうした状況を踏まえて、当社は本年3月に株式会社夢真ホールディングス等を割当先とする第三者増資で3.7億円を、5月にはメリルリンチ日本証券を引受先とする新株予約権発行により、まずは19.8億円を調達しました。
これらはコラテジェンの国際共同Phase3試験開始に必要な費用の一部に充当いたします。

国際共同Phase3試験については、開始するのに必要な資金は取得できましたが、今後数年で必要となる費用についても引き続き確保できるように努めてまいります。

編集室注:取材後、2013.10.1に資金調達に関するリリースが出ています。
第25 回新株予約権(第三者割当て)(行使価額修正条項付)の発行及び第三者割当て契約に関するお知らせ

Q2-1-3:開発スケジュールは?

山田社長:
現在、国際共同Phase3試験開始に向け準備を進めておりますので、この進捗につきましては、また然るべきタイミングで皆様にご報告したいと思っております。

Q3: 事業環境とその対応は?

Q3-1:日本におけるコラテジェンの開発(適応症:重症虚血肢)

Q3-1-1:日本においてもすでにPhase3試験に成功していると資料で拝見しました。日本における開発の現状と方針について教えてください。

山田社長:
日本においては2003年の秋からPhase3 試験の治験を開始しました。全体の1/3の症例が集まったところで中間解析をしましたところ、P値で非常に良い結果が出たこと、また、指標にしていた「痛みの軽減」と「潰瘍の軽減」2つの指標がいずれも十分に満たされましたことを受け、これらの解析結果をもって申請致しました。
ただ、その後の厚労省との検討の中で、さらに症例数を増やす必要があるとの方針となりましたことを受け、制度上「一旦取り下げ」という形にしておりました。

しかしながら、安倍政権における成長戦略の一環として、薬事法の改正案が閣議決定された時から、当社は国内開発についても再開に向けた検討を進めてまいりました。その目処がついてまいりましたので、8月19日にリリースを出させていただきました
薬事法改正案では遺伝子治療薬を含む再生医療等製品に対し早期の段階で仮承認を与える条件付承認制度が盛り込まれており、コラテジェンもこの制度に応じた開発を進める準備を進めています。

今秋の臨時国会で法案が可決された際には、具体的な開発方針について当局と調整し、迅速に進めて参りたいと思います。これは決定次第ご報告させていただきます。

Q3-1-2:開発スケジュールは?

山田社長:
制度が確立することがもちろん前提となりますが、条件付承認が可能となった場合には、2~3年内に「仮承認」の形で上市できる可能性があります。

 

Q3-2:その他の後期開発プロジェクト等

Q3-2-1:その他、上市時期の近いプロジェクトを導入される予定はありますか?

山田社長:
引き続き検討しています。
アロベクチンの場合はPhase3スタディからという大型の試験をすることを前提に導入したものですが、これから考えていく導入品は、すぐに市場で売れるもの、つまり、P3のリスクをある程度回避できるような確度の高いものをと考えております。
分野としては、やはり我々の目指すところは難治性の疾患治療ですので、市場の大小に関わらず、こうした医薬品について、まずは国内から検討していきたいと考えております。

Q4: 今後の成長戦略は?

Q4-1:日本におけるコラテジェンの開発(適応症:リンパ浮腫)

Q4-1-1:コラテジェンは、リンパ浮腫治療薬としての開発も開始されると聞きました。そもそもリンパ浮腫とは何ですか?なぜリンパ浮腫の治療にコラテジェンが貢献できるのですか?

山田社長:
リンパ浮腫とは、リンパ管の障害が原因でリンパ液の流れが停滞し、発生する浮腫(むくみ)のことです。
特に多いのは、二次性リンパ浮腫――子宮がんや乳がんの手術で転移を防ぐためにリンパ節を切除した結果、行き場をなくしたリンパ液が浮腫を起こすもので、これは日本国内だけで推定10万人以上の患者さんがいらっしゃると言われています。
しかも、リンパ浮腫の治療はいわゆるリンパマッサージ等の対処療法等が中心であり、治療充足度が極めて低い上に、根治療法がない(治療をやめると再発する)ものとなっております。

先ほど、コラテジェン(HGF)には血管新生作用があるとお話いたしましたが、実は血管だけでなくリンパ管を新生する作用もあることがわかってまいりました。リンパ管新生作用によるリンパ浮腫の治療は世界初の試みであり、コラテジェンは根治療法となる可能性があります。

この開発プロジェクトはNEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構)の「平成24年度イノベーション実用化ベンチャー支援事業」に採択されました。まずは今秋には原発性リンパ浮腫を対象とする臨床試験を開始し、次のステップとして二次性リンパ浮腫へと進めてまいりたいと思っております。

編集室注:取材後、2013.10.4にコラテジェン開発に関するリリースが出ています。
コラテジェン(HGF 遺伝子治療薬)の第1/2 相臨床試験を開始
~ リンパ浮腫を対象とした世界初の遺伝子治療を日本で開始 ~

Q4-1-2:国内外いずれにもニーズがありそうですが、どちらを優先して開発を進めるのですか?

山田社長:
まずは国内でPOC (proof of concept:新薬等の有効性が実証(確定ではないが認められる)されること) をとることが優先だと考えております。
このデータが出てきた段階で海外のパートナーをアイデンティファイできるかどうかが次のステップですが、そこはむしろPOCのデータがあったほうが良い条件になる可能性が高いと見ています。

Q4-2:子宮頸部前がん病変治療ワクチン(CIN治療ワクチン)の開発 

Q4-2-1:8月27日のリリースで、CIN治療ワクチン開発プロジェクトが厚生労働科学研究費補助金の医療技術実用化総合研究事業に採択されたと拝見しました。まず、このワクチンの特長について教えていただけますか?

山田社長:
子宮頸がんの原因になるのはHPV(ヒトパピローマウイルス)への感染だと言われています。
HPVの感染者は世界に約3億人もいると言われ、そうした方々のうち、1割程度の方が次の「軽度異形成(CIN1)」ステージに、さらにその3分の1が「高度異形成(CIN2/3)」ステージへと移行していきます。

HPV感染と子宮頸がん

2013年9月7日開催 個人投資家向け会社説明会資料:P31より引用)

問題は、現在用いられている子宮頸がん予防ワクチンが、HPV感染済みの方々、前癌病変への治療効果はないということなのです。

CIN治療ワクチンは、予防ではなく「治療」、つまり、CIN3のステージになった方々を治療することができるのが最大の特長です。

子宮頸がんの「予防ワクチン」と「CIN治療ワクチン」の違い

2013年9月7日開催 個人投資家向け会社説明会資料:P33より引用)

Q4-2-2:開発方針について教えてください。

山田社長:
厚生労働科学研究費補助金(厚労科研費)の臨床応用基盤研究事業に採択されました。 これはいわば「先進医療B*」を推進するためのグラント(助成金・補助金)です。

CIN治療ワクチンは東大で臨床研究を進めておりますので、引き続き、このグラントを活用した医師主導の治験という形が計画されています。症例数を集めて、そのデータを申請の材料に活用する等、短い開発期間で申請できるようなそういうやリかたも考えて行きたいと思います。

*先進医療B

厚生労働大臣の定める先進医療及び施設基準(平成20年厚生労働省告示第129号)第3各号に掲げる先進医療のこと。下記のいずれかに該当する医療技術を指す。

・未承認等の医薬品・医療機器の使用又は医薬品・医療機器の適応外使用を伴う医療技術(ただし、人体への影響が極めて小さい医療技術を除く。)

・未承認等の医薬品・医療機器の使用又は医薬品・医療機器の適応外使用を伴わない医療技術であって、当該医療技術の安全性、有効性等に鑑み、その実施に係り、実施環境、技術の効果等について特に重点的な観察・評価を要するものと判断されるもの

Q4-2-3:開発費の調達については?

山田社長:
医師主導の臨床試験にはグラントがでております。
当社については、少なくとも今後1年のうちにまとまった費用が必要になるということはないと見ています。

治験を行うことになった際には、アンジェスのスポンサーとしての費用が必要になってきますので、その費用をどう算定するかというのもひとつ課題として出てくるかと思いますが、今後、最適な開発戦略を検討していきます。

 

Q4-3:NF-κBデコイオリゴの開発

Q4-3-1:NF-κBデコイオリゴに関してお伺いします。これはどのような薬なのですか?

山田社長:
NF-kB、これは転写因子というタンパク質なのですが、遺伝子の中にたった1ヶ所これが結合する箇所があります。ここにNF-kBが結合すると、アトピー性皮膚炎や関節リウマチといった疾患を発生させるきっかけになるということが、ここ20年くらいの研究でわかってきたんですね。

つまり、NF-kBの結合を止めることによって、リウマチなどのNF-κBの活性化による過剰な免疫・炎症反応を原因とする疾患を止めることができる。
NF-κBデコイオリゴは、「先に」NF-kBと結合してしまうことによって、遺伝子への結合を抑制する、そういった作用を持つ薬なのです。

NF-κBデコイオリゴ 作用機序

(クリックして画像を拡大 2013年9月7日開催 個人投資家向け会社説明会資料:P27より引用)

Q4-3-2:開発の現状について教えてください。

山田社長:
このデコイは、どういう形で製剤化するかが非常に難しいところではあります。まずは一番開発への道のりが見えていたのがアトピー性皮膚炎への適応ということで、塩野義さんと本格的に研究を進め始めております。

NF-κBデコイオリゴの開発状況

(クリックして画像を拡大 2013年9月7日開催 個人投資家向け会社説明会資料:P26より引用)

あとはPTAバルーンカテーテルの表面にNF-κBデコイオリゴを塗布した医療機器の開発も進めており、こちらは臨床入りしております。

開発パートナーであるメディキットさんの製品を含め、国内には血管の狭窄部位をバルーンカテーテルで広げて治すという製品はすでにあるのですが、これはバルーンがなくなればまた元にもどる(=血管がしぼんでしまう<再狭窄>)のが難点です。
その点、抗炎症作用を持つNF-κBデコイオリゴをバルーンの表面に塗布することで最狭窄を抑制できる、しかも既存の薬剤塗布型の製品とくらべて血管の内壁細胞を傷つけないという特長を持っています。

また、椎間板性腰痛症の治療薬の開発では、日本臓器製薬と契約を締結しています。

Q5: 個人向けIRの方針および個人投資家へのメッセージをお話し下さい。

―― 最後に、個人株主・投資家の方々へのメッセージをお願いいたします。

山田社長:
この10年のうちに投資家の皆様からお預かりしたお金やライセンス料等を積算しますと、ざっと400億円という壮大な金額になるのですが、それらをすべて使ってもまだ足りないくらいの新薬開発を進めることができている、それはまぎれもなく投資家の皆様のご支援があってこそのものです。

投資家・ステークホルダーの皆様には心からの感謝を申し上げたいと思っておりますし、今、心がけるべきことは、とにかくその御恩に報いることであると、強く心に刻んでおります。

アロベクチンについては、投資家の皆さんにご期待をいただきながらも満足な結果を出せなかった、非常に失望感をお与えしてしまったことに対し、お詫びしなければならないと思っております。

ただ、これに代わるものとして、自社品であるコラテジェンの国内開発を安倍政権の早期承認制度の下、進める見通しがつきつつあります。

また、アロベクチンに期待されていたことのひとつである当社の早期黒字化、これにつきましては当初予定よりも若干の遅れが生じたとしても、早期に達成できるよう、新規のライセンス等にも注力してやっていきたいと考えております。

この数ヶ月の動きをつぶさにプレスリリースしながら、また、株主投資家の皆様に説明しながらやっていきたいと思いますので、是非ご支援をお願いしたいと存じます。

―― 本日はありがとうございました!