本日のインタビューは、株式会社アミューズ(証券コード:4301)です。
サザンオールスターズ、福山雅治、ポルノグラフィティ、Perfume、岸谷五朗、深津絵里、上野樹里、佐藤健など、アミューズ所属のアーティストをよく目にしますが、上場企業として、投資対象として同社を見る機会はあまり多くないのではないでしょうか?
アーティストのマネージメントを行い、かつ上場している会社は、数えるほどしかありません。その1社である株式会社アミューズは、現在の事業環境をどのようにとらえ、今後、どのように成長していこうと考えているのでしょうか。IR担当執行役員の宮腰さんにお話をうかがいました。
- その他のインタビューはこちら
- 第2回:メディアビジュアル事業とは?
- 第3回:所属アーティストとポートフォリオ
- 第4回:音楽ビジネスの稼ぎ方を変えなければならない
- 第5回:海外をどう攻めるか。そして今後の成長戦略は?
- 株式会社アミューズのインタビューは、2014年12月 更新版もご覧ください!
- 前編: 「インフラ力」でアーティストに選ばれる存在へ
- 中編: 海外展開 ~ソーシャルメディア時代の新たな可能性~
- 後編: 新たなビジネスモデルへの挑戦
第1回:事業構造とビジネスモデルの特長
―― 音楽業界が不況と言われて久しい中、アミューズの業績は好調を保っているように見えます(図表1-1)。これはなぜなのでしょう?
宮腰:
CDなどのパッケージ販売が減少しているということから音楽業界は不況というイメージが強くあります。ただ、一方でライブの市場は右肩上がりで成長を続けています。アミューズの事業は、CD等パッケージビジネスだけでなく、むしろライブに関連するビジネスが大きな割合を占めています。それが当社の業績を支えている大きな要因のひとつですね。
―― ライブ市場関連のビジネスは、どの事業セグメントに含まれるのですか?
宮腰:
アーティストマネージメント事業です。同セグメントの直近期(平成25年3月期。以下、H25/3期)の売上高は約240億円(図表1-2)ですが、その中で、ライブに関連して動いている部分(編集室注:図表1-3の「イベント」および「ファンクラブ、商品」)は約180億円あります。つまり、実に当社の売り上げの6~7割を占めています。
―― 「イベント」とは音楽のライブでしょうか?
宮腰:
それ以外にもあります。たとえば岸谷五朗と寺脇康文が主宰する劇団ユニット「地球ゴージャス」や、大泉洋が参加している「TEAM NACS」などが主催するものなど、役者系の舞台公演や若手役者によるイベント等も含まれています。音楽系アーティストがどうしても表立って見えるのですが、役者系アーティストのビジネスもバランスが取れているのが、アミューズの大きな特長です。
―― ファンクラブや商品が「ライブ関連」に含まれるのはなぜですか?
宮腰:
まず、ファンクラブ入会による大きな特典として、コンサート・ライブのファンクラブ先行チケットへの申し込みが可能になる事があげられます 。また、商品売り上げの大半はライブツアー等の際に購入されるアーティストグッズです。ファンの方々は、イベントをより楽しむためにタオルやTシャツなどを購入されます。このため、イベント・ファンクラブ・商品をまとめて「ライブ関連」ビジネスと呼ぶことができると思います。

(平成25年3月期決算説明会 P3より引用)

(平成25年3月期決算説明会 P5より引用)
(クリックして画像を拡大 :平成25年3月期決算説明会 P6より引用)
―― アーティストマネージメント事業の中に、「印税(新譜)」とありますが、これは音楽CDの販売に関わる収入と考えて良いでしょうか?
今、CDがなかなか売れない状況になっていると思いますが、業績上、その影響はどの程度あるのでしょうか。
宮腰:
音楽から生まれるいわゆる印税収入は、楽曲の発売から1年以内のものはアーティストマネージメント事業の「新譜印税」に、1年を超過したものはコンテンツ事業の「旧譜印税」に含まれます。
具体的には、映像関係のものも含めてH25/3期は「新譜印税」「旧譜印税」を合わせて45億円程度ですし、過去数年にわたっておおよそ40-45億円程度の水準です。 もちろん決して小さな額ではありませんが、当社の収益構造の中だけでみると、音楽CD等の販売が減少していることによる影響は、比較的限定的であると考えています。
―― 印税収入は、意外に少ないものなのですね。
宮腰:
アーティストが新譜のCDを販売した際に、一般的にはマネージメント会社に入ってくる収入は図表1-4の「原盤印税」の中の「原盤制作者印税」の部分です。
原盤とはCDをつくるもとになる音源の事で、「原盤制作者印税」は、原盤制作費の負担割合に応じて分配されるのが一般的です。これに加えて当社の場合は、音楽出版会社の機能ももっていますので、その収入もあります。全体を100%とした場合、結果として、おおよそ10-20%程度 にあたります。

―― 1枚3000円のCDアルバムが売れたとして、御社に入る金額はそのうち300~600円程度にすぎないという計算になりますね。レコード会社と比べると取り分はずっと少ないのですね…。
宮腰:
ただ、レコード会社は、管理費・営業費に加えて、広告宣伝費という先行投資をしていただいている、つまりリスクをとっていただいているので、配分も多くなっていると言えます。
ところで、実はアミューズもグループの中にレーベル機能を含むレコード会社の機能を持っており、自分達でCD・DVDを作って発売したり、音楽配信するビジネスを行っています。主体になっているのは、KDDIさんとのジョイントベンチャーである、グループ会社のA-Sketchです(図表1-5)。

(平成25年3月期決算説明会 P19より引用)
―― レーベル機能のほかに「パッケージ販売」と「グッズ制作」の機能もありますね?
宮腰:
はい。アミューズソフトエンタテインメントという流通機能も持っていることにより、たとえば、アミューズでマネージメントを行っているflumpoolは、レーベル機能はA-Sketchで、そこで発売するCDはアミューズソフトエンタテインメントで流通・販売することが可能となります。また、アーティストのツアーグッズ等は芸神クリエィティブで企画・制作もします。
もちろん全てをということではありませんが、周辺事業を内製化し、「一気通貫」でビジネスを展開することにより、収益機会が多様化し、事業基盤が強くなります。
―― 業界内で「一気通貫」をモデルとっている企業は他にもあるのでしょうか?
宮腰:
もちろんあります。上場企業の中では、エイベックスさんや、ソニーグループのSME(ソニー・ミュージックエンタテインメント)さんなどもマネージメント機能を持っておられます。これらの企業は、もともとレコード会社の立ち位置が中心でやっておられたのですが、コンテンツを生み出す源であるアーティストそのものをマネージメントする業務も力を入れてこられています。
世界有数の音楽会社の一つであるユニバーサルさんも、日本では「360度ビジネス」―つまり、レコード会社機能だけではなくグッズやマネージメント事業の強化に取り組まれています。
当社のようにマネージメント会社側から発展していく形と、レコード会社側から発展していく形と、それぞれありますが、いずれも自分たちの強みのあるところから「周辺ビジネスも取り込み、収益基盤を多様化・強化する」ことを目指しています。こうした動きは現在、私たちの業界の大きな流れの一つになっていると思います。