上場企業のCSR・IRご担当者を陰で支える存在であるCSRコンサルタント、株式会社サステナビリティ会計事務所の代表・福島隆史さんのインタビュー記事をお届けします。

内部統制はいまや「財務」報告だけのためにあるのではない

―― CSRの分野は、キーワードやガイドラインの移り変わりが激しく、かつ、その対象となる範囲も年を追うごとに広がっているという印象があるのですが…。

福島:
基本的な考え方自体は、大きな変化などなく、何も難しいことはないんですよ。

企業のCSR活動とは、要するに社会全体と企業自身におけるサステナビリティ(持続可能性)を高めるために行うべき活動――つまり、自社グループの中にどういったリスク、あるいはチャンスがあって、それに対してどういう取り組みをしているのかということを、ある程度ちゃんと「見える化」して、言っていいところは外部にも伝えていきながら、それに対するフィードバックを励みにして取り組んでいきましょうということなんです。
それ自体は、CSRやサステナビリティ、あるいは統合報告などと言わなくても、もともと取り組む方がよいことですから、そこに流行りもすたりもないと思います。

マネジメントのすべては非財務も含めた「統合的な」方向に向かう、それは間違いありませんし、実際、各種ガイドラインもそういった動きをしています。
たとえば、米国COSO(トレッドウェイ委員会組織委員会)が発行している、内部統制フレームワークが2013年5月、20年ぶりに全面改訂されました。改訂前は、財務報告に関して、どれだけ健全に報告できるかというプロセスを作るのが内部統制の定義でしたが、改訂後は財務報告の「財務」が消えて、「報告」に対して牽制機能が働くシステムをどう作り上げていくか、というふうに定義が変わったのです。

売上や利益といった財務面に限定されない、企業のミッションに対する活動の在り方を、ちゃんと外に向けて透明性をもって開示しながら進めていく。そうした企業活動に携わり、ご支援していくことが私達にとってのミッションであり、やりがいでもあります。

多くのCSR担当者が抱える悩みとは

福島:
売上や利益だけで評価される時代ではなくなっているということ――たとえば、働き甲斐のある会社であるかとか、環境に悪いことをしてはいないかとか、ガバナンス的におかしくないかとか、そういった「ESG評価」というのを受ける時代になっているというところまでは、企業のCSR担当であれ、IR担当であれ、気づき始めておられます。
ただ、では実際に自分達はどこに注力して頑張れば良いのかといった時に、あまりに範囲が広すぎてわからなくなってしまう、という方は多くおられます。

―― 範囲が広すぎる、と言いますと?

福島:
ESG評価の範囲として、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)という大区分のもと、たとえばガバナンスの中にはリスクマネジメントやコンプライアンスも全て含まれますし、ブランドマネジメントとか、イノベーションマネジメントとか、そういうものをすべてひっくるめた窓口担当がCSR担当になってしまっている場合だってあるのです。

一方、CSR担当者の由来はと言えば、それこそ、少し前までは社会貢献活動のみをやっていたという部門であることも多く、それがいきなりこんな広い範囲の開示に対して責任を持てと言われても、とてもできない。それどころか、自社グループの現状がどうなっているかすら把握しきれていないということはままあります。

そもそもグループ会社の実態は驚くほど把握されていない

―― 「現状把握」とは、具体的にはどのようなことを指すのですか?

福島:
贈収賄の防止を例にとってお話しましょう。

一人の営業マンの行為によって何百億という損失が出るケースだってある、そうしたリスクへの対応が非常に重要だというのは皆さん理解しておられますし、その点に異論はないのですが、じゃあそういった研修を、きちんと営業マンや購買担当にさせていますか?海外子会社に至るまで実施していますか?と聞くと、「やっているはずだ」という回答が返ってくるわけです。
「やっている“はず”とは?」と重ねてお聞きすると、「日本から派遣している役員にそういうことが重要だと教育してあるから、(現地でも)やっているはずだ」というのが精一杯の回答で。

そこで今度は質問を変えて、「(研修の)対象となる従業員の何%に研修が終わっていますか?」とお聞きすると、次に判明するのは、その分母となる従業員数自体がほとんどわかっていないという事実なんです。しかもそれは決して珍しいことではないんですよ。

たとえば、海外の従業員数やガバナンスの状況を把握しようと人事部に話を聞きに行くと「当部の人事範囲は(親会社)単体のみだ」あるいは「(親会社と)同じ人事制度を回している国内子会社までだ」という回答がかえってきます。
海外のことは海外担当がいるから、ということでその方に話を聞きにいってみると、「当部は海外のどの会社にどれだけ投資するかを決める部署なので。」と言われる。残念ながら、相当な大企業であっても、こういう状況は非常によくあります。

ですからグループ経営と言っても、本当の意味で必要なガバナンスがきいているかというと、まったくきいていない、グループ経営の実態は「お任せ経営」ですね。日本の企業グループは、得てしてそういったことになっています。

経営者のコミットは絶対に必要

―― こうした現状を改善するためには何が必要なのでしょうか?

福島:
何といっても、経営者自身のコミットですね。
経営者自身がCSRやグル―プ経営の意味を理解し、その第一歩として、グループ全体の経営の実態を正確に把握するよう、全社に向けて方針を示すことですね。

これは、CSR部長がやれというだけではだめなのです。経営者がやれといいましたというところまで持っていかないといけない。

―― でも、どうやって?

福島:
役員の方々に向けた研修やセミナーであったり、社長に対する対面提言であったり、そういったことを通じてそれを実現するのも、私達の仕事のひとつです。
セミナーも、単なる一般論ではなく、その企業の部門ヒアリングを終えて、各部門が悩んでおられる現状を把握した上で役員の方々にお話していきます。

僕は、役員の方々に対しても「5段階評価で見て、御社は、平均して2点ぐらいかな」なんて平気で言ってしまうんですよ。そこは部外者ですから遠慮しない、遠慮しちゃだめだとすら思っています。
ですから当然ご不興を買うこともありますが、それでも最終的には「そういうこともちゃんとやっていかないといかんな」と理解していただけるところにつながる場合が多いのです。

その結果、たとえば、従業員の状況であるとか、安全に対する災害の発生頻度の情報であるとか、そういったものをまずは現状把握しろという指令が(経営トップから)くだって、そこで初めて、各グループ会社に対して、こういうことだからこういう枠にそって集計してくださいねという実際のオペレーションの部分をご支援するステップへとつながる、そんな形で進めているのが、私達SusAのCSRコンサルティングなのです。

第2回「アニュアルレポートとCSRレポートの合冊はやめたほうがいい」へ続く